指揮官の条件 / Make It So!
『スタートレック指揮官の条件』は、たしかにトレッキー向けの関連書籍のひとつではあるけれど、現実の社会人生活におけるさまざまな困難を乗り切るための知恵が詰まっていといえる。そして、上司や先輩の人物評価をする際の指標にもなる。
■目次
序章 大いなる遺産
ジャン=リュック・ピカードの経歴―「艦長私的記録」の背景
第1の資質・集中力―焦点を絞りなすべきことをせよ
第2の資質・緊迫感―即刻、行動せよ
第3の資質・率先力―自ら進んで行動せよ
第4の資質・能力―向上心を持ち続けよ
第5の資質・コミュニケーション能力―相手を理解せよ、相手に理解を求めよ
第6の資質・正当性―役職に伴う権力を正しく使え
第7の資質・知的誠実さ―尊敬と信頼を得よ
第8の資質・信頼関係―全員が協力して任務に当たれ
第9の資質・精神力―絶対に希望を失ってはならない
終章 終わりなき旅路―人類の進歩は探求心にある
補完資料 スタートレック小史
■( bk1 amazon 紀伊国屋 )
昨年、この本を読みながら、私は過去にお仕えした上司や先輩たちの顔を思い浮かべた。彼らははたして、ジャン=リュック・ピカードが言う指揮官の「資質」を備えていただろうか? 残念ながら、毎日新聞記者時代には阿呆な上司や先輩にお仕えしたことも少なくなかった。私が最も阿呆だなあと思ったのはAさん。ミスは部下に押しつけ手柄は独り占めという見下げはてた男だった。自らの地位を守るのに汲々とするその姿は、周囲が赤面するほどだったけれど、それを本人とその上司が気付いていなかった。あれほど人望のない人間が社会部長になったとは…… Aさんには第3の資質「率先力」、第5の資質「コミュニケーション能力」、第6の資質「正当性」、第7の資質「知的誠実さ」、第8の資質「信頼関係」が欠けていた。24世紀の地球で生まれていれば、けっして上級士官にはなれまい。クワークの酒場で人生を学んでほしい。
先輩面をして新人記者に理不尽な無理難題を押しつける愚かな人もいた。広島支局時代にお仕えしたMさん、Hさん。本人は後輩を「いい記者に育てるため鍛えてやっている」というつもりだったのだろう。そういう悪気のなさが手に負えない。熱血教師や熱血警官にありがちな、体育会的なノリ。上司や先輩という少しばかり高い立ち位置から、目下の者にアドバイスする。思い通りにならないためつい罵倒になる。その回数も増える。頻繁に、そして、烈火のごとく。それって、自分のトラウマを解消するためのまるで代償行為ではありませんでしたか? 彼ら欠けていたのは、第1の資質「集中力」、第9の資質「精神力」。その後も彼らは自分を見失わずに生きているかな。
もちろん、私がお仕えした上司や先輩は、かならずしも下劣な人間ばかりではなかった。尊敬すべき、お手本としたいと願った人物もいる。幾人もいる。すばらしい人が何人もいた。そのなかで最も理想的な上司は、1988年から99年にかけて、京都支局でお仕えした川村正文元支局長である。川村さんは、第1から第9のすべての資質を兼ね備えていた。少なくとも私の目にはそう映った。たんに新聞記者としてではなく、人として信頼され、尊敬されていた。いま思えば、私は川村さんに素朴な憧れを抱いていたと思う。当時の毎日新聞京都支局がエンタープライズDならば、間違いなく川村さんはピカード艦長だった。(わたしの役どころはチーフ・オブライエンかな)
川村さんは毎日新聞社を退職後、カンボジアの民話を採集して子供たちの教育に役立てる活動を精力的に続け、2000年2月に他界された。合掌――。
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