よもやの出版差し止め仮処分命令
東京地裁が、衆院議員で元外相の田中真紀子氏の長女をめぐる記事を掲載した「週刊文春」の17日発売予定号について、出版を禁止する仮処分命令を出してしまった。命令は発売前日に出されたが、雑誌自体はすでに全国の書店に配送済みで、ほとんどは販売された。だけど、発売前に出版を禁じる仮処分命令は異例だ。
この仮処分は、真紀子長女に手痛いものだったはずだ。今回の仮処分命令に対し、多くの雑誌メディアは文春の立場にシンパシーを感じ、真紀子長女側を言論の敵と見なしがち。真紀子長女側に不利なのはそれだけではない。今回の仮処分命令によって、離婚という事実が、文春読者数よりもはるかに多くの人の目にさらされてしまうという事態を招いてしまった。文春側よりも真紀子長女の側に「痛い」命令だったと見るのが自然だ。
仮処分命令を出した東京地裁の判断は正しかったのか。記事内容が、人の生き死に関わるほどの深刻な問題でもなければ、国家の命運を左右する重大問題でもない。スクープかも知れないが、私人の離婚をめぐるゴタゴタをスッパ抜いた記事でしかない。文春側にとっても、真紀子長女側にとっても、「よもや」の仮処分命令だったのではないでしょうか。
でも、これが元外相の家族ではなく、フツーの人だったら(あるいは「社会的弱者」だったら)、判事は仮処分を認めただろうか。こんなとき、「もし」の問いかけをしても、意味はない。だけど、つい、考えてしまう。これが真紀子長女ではなく、旧オウム真理教関係者や、白装束団体、京都の某養鶏場関係者などであったとすれば、判事はどんな判断をしただろう。
たとえ公人の家族であろうとプライバシーは尊重されねばならない。そうですよね。理屈は大いに分かります。なら、私人のプライバシーはそれと同等(か、あるいはそれ以上?)に守られなければならなくなるのではないですか? 鬼沢友直裁判官殿、あれで本当に良かったんですかねえ。
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