世論(1)
政治的な話題で使われることの多い言葉に「世論」というものがあるが、驚いたことに、この言葉の定番とされる定義はない。いろんな学者がトライして、ことごとく失敗している。わたしのような凡骨が空気のように使っている言葉を、その道の研究者たちがきちんと定義できていないというのは皮肉な話だ。
たとえ学術的に定義ができなくても、市販の辞書類に意味が載っていないわけがない。さっそく、愛用のVAIO-TRにインストールした各種辞書で「よろん」を串刺し検索してみた。
【広辞苑】世間一般の人が唱える論。社会大衆に共通な意見。(「世論」は「輿論」の代りに用いる表記。→せろん) 【大辞林】世間の大多数の人の意見。一般市民が社会や社会的問題に対してとる態度や見解。「―に訴える」「―を喚起する」〔「世論」と書くときは「せろん」と読む場合が多い〕 【マイペディア】多数者(輿)の意見。⇒世論(せろん)のこと。いずれも「よろん」だけではなく「せろん」も調べろと言っていた。仕方なく「せろん」も調べてみた。
【広辞苑】世間一般の議論。輿論(よろん)。せいろん。(もと、ヨロンと読んで「輿論」の代用としたが、セロンとも読まれるようになった) 【大辞林】世間の大多数の人の意見。世上で行われる議論。せいろん。よろん。〔戦後の漢字制限によって「輿論(ヨロン)」の代わりに用いられるようになった語。「せろん」「よろん」の両方の読み方が行われている〕 【マイペディア】ある社会集団の中で,成員一般に関する問題についてある程度の意見の一致を経て表明され,多数がそれを標準的と認めている顕在的意見。広義には顕在的意見の根底にある欲求や願望も含まれる。近代民主政治の政治過程と結びついて発展してきた社会学的ないしは社会心理学的概念で,支配の正当性を求める統治体との関連において問題とされる。
辞書によってバラつきがあるものの、ざっとみたところ、多数者の意見をまとめたもの…みたいな感じになる。ちなみに、「輿」という文字は、御神輿(おみこし)の「こし」。京都の葵祭で斎王代が乗るのは、御輿(およよ)と呼ばれる。そんなわけで、わたしは輿論という漢字から、下々の者どもが大勢で“お姫様のようなあでやかな論”で担いでいる図を頭に描いてしまう (←これって、リップマンの疑似環境?)。
歴史的にみると、どうやら輿論(よろん)が「公的な意見」を指し、世論(せろん)が「人々の心情や本音」を指すものとして同時並行で使われていた時期もあった。大辞林の説明にあるように、戦後の漢字制限で「世論」に統一されたが、読み方は「よろん」と「せろん」の二つが残ってしまった。だから辞書を二度もひかなければならない。
ところで、そもそも日本列島に「世論」などという概念があったわけではない。民主主義とともに輸入された考え方だ。この国に昔からあったのは、もちろん「世間」である。この世間というやつも非常に多義的で、「世間騒がせ」や「世間ずれ」といった表現や「渡る世間に…」などいくつもの諺に取り入れられている。
世論にせよ世間にせよ、一方的なプロパガンダや洗脳教育のようなものによって作られるのではなく、おそらく人々が意思や感情を伝達しあうなかで生みだされるものであるはずだ。つまり、コミュニケーション過程の問題とした考えたほうがよい、というの研究者もいる。
そうこうしているうちに、珍妙な言葉に出会った。「ネット世論」である。そんなところに、いつから世論できていたんだ? それって、どこかの掲示板でヒステリックな書き込みが相次いだとして、はたしてそれが世論か? うーん、わからん。ふつうの世論でさえ分かりにくいのに、ネット世論なんて、勘弁してくれ、と言いたくなる。
ちなみに、わたしの好きなマーク・トゥエインの言葉にこういうのがある。
「自分が多数者の側にいると気づいたら、そろそろ意見を変えてもいいころだ」
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コメント
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