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2004年8月20日 (金)

ドラキュラとサマータイム

昼と夜が逆転した生活に移行して10日が経過した。正直、最初はキツかった。時差ボケに加え、10-16h/dayという拘束と、経験したことがない緻密なスポーツデータの精査に心身ともグッタリさせられた。

ところが不思議なもので、1週間もたつと、(相変わらずスポーツは苦手なままだが)体内時計がリズムを整えはじめた。西の空に太陽が沈みかかると「さーて、1日のはじまりだなあ」なーんて気持ちになる。闇夜に目がランラン。やうやう白くなりゆく山ぎは、少しあかりて……という時刻になると「もう1日が終わってしまったんだ」とどこか切ない気持ちになる。人間の適応能力というのは偉大だなあ。

昼夜逆転と言えば、ドラキュラ伯爵が有名です。ルーマニアの孤城に暮らす変わり者の伯爵は月明かりとともに棺から起き出して、夜な夜な~~とアイルランドの作家ブラム・ストーカーは創作しました。昼夜逆転のため生白い顔をして、目をギラつかせ真っ赤な唇をしている。そんな伯爵は想像するだけでもおぞましい。でもね、彼の視点で考えれば、夜に生活を始めるのはフツーの日常生活だったわけでしょ。美女の血を吸って回るのも、生きていくための退屈な労働だったにちがいない。宮台さんふうにいえば、「終わり無き日常」だったかも。美女には縁どおいわたしですが、こういう生活をしてみて、伯爵の気持ちが少し分かるような気がしました。つまり、いったん慣れてしまえば、辛くも楽しくもない。いたってフツーの日々なのです。

ところで、欧米では夏時間と称して時計を1時間ばかり進めたりする。だけど、その程度では生ぬるいと言いたい。いっそのこと日本全土で12時間ずらしてはどうだろう。だって、1時間くらいずらしてもお昼の気温が30~40度ということに変わりないでしょ。1時間のサマータイムなんて、おヴァカです。陽が陰って過ごしやすくなってから労働したり、勉強したり、遊んだりするほうが理にかなっている。それはきっと環境にも、人間にもやさしいはず。

12時間差のサマータイム(つまりブラジル時間だな)が実現すれば……

日没とともに始発電車が動きだす。各家庭には「夕刊」という名の朝刊が配達される。あたりが暗くなりはじめたころ、人々が生活が始まる。

アオキさん(←まあ誰でもいいのですが)の家庭では、妻のヒル子さんが「いつまで寝てるの! もう夜よ!」と子供部屋に向かって怒鳴り声をあげて一日がはじまる。小学三年のケンジ君はパンと牛乳だけの晩ごはんをすませると、ランドセルを背負って「行ってきまーす」と元気よく家を飛び出す。闇の中を学校めざして駆けていくケンジ君の顔や手足はどこかナマっ白い。

ここですこし解説しておくと、この時期、早起きして散歩をするお年寄りたちは西日に焼かれて浅黒い人が多い。昼ごと徘徊するボケ老人は真っ黒に日焼けしていて、どこか精悍な風貌になる。また、不夜城を支配していた「夜の帝王」も、この時期、不昼城を支配する「昼の帝王」に変わり、大平元首相が着ていたような省エネルック姿で、カンカン照りの歌舞伎町を闊歩する。

えー、アオキさんの家庭に話を戻しましょう。ケンジ君と夫を見送ったヒル子さんは、小さな夜なべを済ませた後、午前零時にみのもんたの思いっきり云々とか、タモリのいいとも云々とかを見たり、夜メロの再放送を見たりしながら、ふたたび夜なべをする。夜なべというと、なんだが勤勉なイメージしがちだが、夜の家事はすべて夜なべなのだ。勤勉でもなんでもない。

そうこうするうちに、ケンジ君が帰宅し、「友だちとサッカーをするんだ」と夜遊びに出てしまう。ケンジ君の背中には「明るくならないうちに帰ってくるのよ!」というヒル子さんの声が突き刺さる。夜遊びはいいが、朝遊びは不良のすることなのだ。やがて、会社からアオキさんが帰ってくる。昼の帳(とばり)がおりはじめたころに一家団欒の朝食となる。食卓には、サンマの一昼干しと、ホタルイカの一昼漬けなどが乗っていた。

ヒル子さんが言った。12時間サマータイムのおかげで、UVクリームも日傘もサンバイザーもいらなくなったし、わたしはサマータイムに賛成よ。アオキさんが応えた。ゴルフをしても球がどこへ飛んだかわからんのだよ。それに、仕事帰りに一杯引っかける飲み屋に赤ちょうちんが灯らないのも寂しい。それに、あれだ、なんちゅうか、昼の夫婦生活というのもヘンだよな。

昼はすっかり更けてゆき、カーテンごしに目映い光が漏れてきたころ、朝酌をやっていたアオキさんが思い出したようにテレビをつけると、「夜まで生テレビ」をやっていた。激論、12時間サマータイム制度は是か非か--そんなテーマで出たがりの評論家や文化人が、政治家たちがドツキ合い寸前の激論を演じている。エネ庁系の論客はサマータイムの経済効果や環境効果を滔々と説き、反対運動家たちは「経済効果や環境効果は微々たるもの」「むしろマイナスだ」と反撃。いつしかアオキさんはコックリコックリとソファで眠りこんでしまった……

■ウィキペディア「夏時間」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%8F%E6%99%82%E9%96%93
■参考ブログ
わたくし犬でございます.net「サマータイム導入の良し悪し」
http://watainu.main.jp/archives/2004/04/21/summertime.php
■参考サイト
社会経済生産性本部「生活構造改革をめざすサマータイム」
http://www.jpc-sed.or.jp/teigen/index.html
サーマータイム問題を考える
http://www.gene.ne.jp/~lagoon/st/
サマータイム導入反対リンク
http://kobe.cool.ne.jp/momijipafe/stopst.htm
(財)省エネルギーセンター
http://www.eccj.or.jp/SummerTime/conf/index.html
サーカス「Mr.サマータイム」←懐かしいです
http://wagesa.cool.ne.jp/music/j-folk3/mrsummertime.html

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