« 映画『華氏911』をどう見るか(修正・再掲載) | トップページ | 「ロー生」と「口一生」 »

2004年9月29日 (水)

小説『タイムライン』で量子論が分かった気に

9月下旬、はじめて草津温泉でのんびりさせてもらった。足湯しながらボーっと読んでいた本は、社会学のお勉強系ではありません。なーんのタメにもならない娯楽系のSFでした。ひとつはスタートレックもの。もうひとつはクライトンもの。2つとも時間と空間を飛び越えるハナシで、はっきり言って現実逃避です。

ポール・ルディティス『暗黒からの衝撃波 スタートレック・エンタープライズ』(ハヤカワ文庫,2004)は、22世紀から31世紀にすっと飛ばされたアーチャー船長が、艱難辛苦のすえ22世紀にもどり、船の危機を救うというストーリー。テレビの第1シーズンと第2シーズンをつなぐ重要なエピソードのノベライズなのだが、案の定タイムパラドックスにまみれていた。スタトレでは、時間旅行の話がちょくちょく出てくるが、雑なストーリーもある。ジェインウェイ艦長は、VOYの第100話「過去を救いに来た男」のなかで「タイムパラドックスを解消する方法は簡単よ。考えないこと」とキム少尉に話す場面があったが、あのときは(スタトレ歴30年のわたしも)さすがに脱力した。

マイクル・クライトン『タイムライン(上・下)』(ハヤカワ文庫,2003)は、時間矛盾のない時間旅行のハナシ。矛盾を回避するために量子論が使われていると聞いていたので、期待して読みはじめた。量子論は理解したい。なぜなら、それはオンラインセキュリティやネットワーク社会における人権にも関係する。たとえば暗号技術。PGP暗号で守られた電子メールは、地球上の全コンピューターをいっせいに働かせても1200万年かかるなどといわれる(サイモン・シン『暗号解読』新潮社,2001)。そんな強力なPGP暗号も、量子コンピューターが登場で寿命を迎える。いずれユビキタスとも関係するかもしれない。量子技術は21世紀の“起爆剤”。そんな技術家定論的な考え方を、なんの躊躇なく信じ込むとバカにされそうだが、それでもなおわたしは量子論のことはすこしくらい知っておきたいと思う。

以前、量子論に興味を抱いたころ、2冊の本を買ったことがある。1冊目は森田正人『文系にもわかる量子論』(講談社現代新書,2002)。これが、ちーっとも分からなかった。文系にもという表現になんともいえない風味があるが、それはさておき、この本で量子論は学べない。原稿がチョー下手で、編集者もきちんと仕事をしていない。これでは理系でも分からないだろう。 もう1冊は、最初から「これは違う」とわかっていて読んだ本。ミシェル・ウエルベック『素粒子』(筑摩書房,2001)。フランス現代文学の問題作というふれこみだったので、きっと量子論とはぜんぜん関係ないこという予想はついていたが、通読してわかったのは、やはり関係がなかったということだった(小説としては出色だった)。結局このときは、量子論からはるかに遠ざかってしまった。

『タイムライン』に話をもどすと、クライトンはこの作品で、スリットに光子を通すこと観察される不思議な現象を紹介しながら、多世界解釈という物理学の考え方を用いて、登場人物を過去に送り込んだ。正確には「過去」ではなく平行宇宙への移動であり、時間旅行ではない。それでも実質的に登場人物は過去に旅立ち、現在に戻ってくるのだから、まあ、差はない。小説としては?な作品だったが、量子論のことがすこしはわかったような気になれた。気になれた程度であるが。

余談だが、クライトンほど目ざとい作家はいない。『ジュラシックパーク』(1993)でカオス理論とバイオテクノロジーを、『プレイ 獲物』(2003)ではナノテクを扱った。そしてタイムラインでは量子論。クライトンが着目したのだから、かなりの確度で量子論は重要である。技術なんてものは、技術者当初考えたようには使われない。だけど、量子の考え方を取り入れた技術はいくつもあり、携帯電話やMRIでも使われている。知らない間にわたしたちの生活は量子論ぬきに成り立たなくなるような気が・・・・・

■書籍情報
ポール・ルディティス『暗黒からの衝撃波 スタートレック・エンタープライズ』ハヤカワ文庫,2004 [bk1|amazon
マイクル・クライトン『タイムライン』ハヤカワ文庫,2003 [bk1|amazon
森田正人『文系にもわかる量子論』講談社現代新書,2002 [bk1|amazon
ミシェル・ウエルベック『素粒子』筑摩書房,2001 [bk1|amazon
サイモン・シン『暗号解読 ロゼッタストーンから量子暗号まで』新潮社,2001 [bk1|amazon

■関連リンク
Michael Kanellos「米科学者ら、原子の量子テレポーテーションに成功」,CNET News.com,2004/06/18
「量子テレポーテーションと不落の量子暗号」気になる科学ニュース調査,2001/10/06
Lindsey Arent「テレポーテーションと量子コンピューター」HotWired,1999年5月7日
「比喩表現が連発する量子コンピュータ」気になる科学ニュース調査,2001/05/26
Mark K. Anderson「量子力学がひらく衝撃に満ちた未来」HotWired,2001年7月2日
量子テレポーテーションを研究する東京大学大学院古沢研究室
量子情報に関するリンク集(日本)

|

« 映画『華氏911』をどう見るか(修正・再掲載) | トップページ | 「ロー生」と「口一生」 »

「books」カテゴリの記事

「cinema」カテゴリの記事

「science」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/19960/1546443

この記事へのトラックバック一覧です: 小説『タイムライン』で量子論が分かった気に:

« 映画『華氏911』をどう見るか(修正・再掲載) | トップページ | 「ロー生」と「口一生」 »