ケツから突っ込め
オンナ記者が増えるとジャーナリズムは変わるのか? 今週の水曜日、そんな内容のゼミ発表をした。順番でお鉢が回ってきたわけではない。じぶんから手を挙げて「やりまーす」と言ったのだ。
課題文献は次のとおり。
van Zoonen, Liesbet. (1998) `One of the Girls? The Changing Gender of Journalism' , in C. Carter al. (eds) "News, Gender and Power", pp. 33-46. London: Routledge
「One of the Girls?」なんていう題を見ているとカンタンそうだし、分量も10ページあまり。準備にかける時間も労力も少なそうだ… そんなふうに思えたのはその日の夜まで。たしかに分量は多くない。でも、いちおう英語論文(ウィットに富んだ表現もあったそうだけど、なにがオモロイのか分からなかった)。かつて部落差別問題を取材したことはあったけど、フェミニズムについては門外漢。なーんも分からんというのは悔しいので、限られた時間内でできるかぎりの努力をしてみた。
分かったこと。一言でいえば、リスベット・ファン-ゾーネンは「オンナ記者が増えればジャーナリズムは変わる」という主張を痛烈に批判をしていた(と断定できるほど自信がないけど…)。これは意外な展開だった。なんか予想を裏切られたような気がした。煙に巻かれたような感じというほうがピッタリくる。わたしだって《オンナ記者が増えれば業界は変わる》式の考えを素朴に信じていたからだ。
もう15年以上も昔、整理記者からこんな話を聞いた。「さあ降版というときに事件が発生して、20行ほどの一報が飛びこんできたとしようか。そんなとき、むかしのデスクなら『こら、ケツから突っ込め!』と現場を怒鳴りあげたもんだ。だけど、整理部に女の記者が来てから、そういう表現はなくなったね……」。彼によると、オトコ記者はオンナ記者の目を大いに意識した。オトコばかりの世界がいかにヘンなのかを、たった一人のオンナ記者の存在で思い知らされたというのだ。(むろん、あちこちの現場に配置された“第1号”のオンナ記者が味わった苦労も想像に余りあるのだけど)
ファン-ゾーネンによると、ジャーナリズムがヒューマン・インタレストに重きをおき、ある意味でフェミナイズしていったのは、オンナ記者が増えたからではなく、市場優先ジャーナリズムの拡大がオンナを必要としたためだという。フェミニニティ(女らしさ?)って、いったいなんだろう。これは部落差別のアナロジーがそれほどうまく当てはまりそうにない。うーむ、難しい。でも、この授業を通してジェンダーやフェミニズムに詳しくなれるというのは結構うれしい。
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コメント
現役の整理です。新聞では広告をぜーーんぶはずして15段全部記事にすることを、大昔は「ノーズロ」なんて言ったそうですが、これも、今はいいませんね。
つい、一言書いてしまいました。
投稿: someya | 2004年10月23日 (土) 02時49分
someyaさん、コメントをありがとうございました。
それにしても「ノーズロ」はすごいですね。整理部は昔からジャーゴンの宝庫だったのかも。「フンドシ」とかもありましたよね。
投稿: 畑仲哲雄 | 2004年10月23日 (土) 09時33分
> ケツから突っ込め
はい、明日突っ込んできます。 >内視鏡
「ん?およびでない。こりゃまた失礼」の懐かしパターンでした。
投稿: ヒロ | 2004年10月26日 (火) 20時49分
偶然にも自分が今回この文献を発表します(゜o゜)!!
>「One of the Girls?」なんていう題を見ているとカンタンそうだし、分量も10ページあまり。準備にかける時間も労力も少なそうだ… そんなふうに思えたのはその日の夜まで。
ものすごい共感してしまいました。笑
いい発表ができるようにがんばりますw
投稿: にゃん | 2005年5月21日 (土) 16時03分
>にゃんさん:さては、H&H先生の基礎ゼミですね? 復習もかねてノゾキに行きたいなー。
投稿: 畑仲哲雄 | 2005年5月21日 (土) 19時41分