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2004年11月21日 (日)

iTunes Music Storeと法をめぐる備忘録

iTunes Music Store
情報法学のゼミで、米Apple Computerの音楽配信サービス「iTunes Music Store」をめぐる調査論文のさわりの部分を読んだ。論文は、米ハーバード・ロースクールのThe Berkman Center for Internet & Society の Digital Media Project がネットで公開しているPDFファイルで、だれか日本語にしてくれる人がいればとても助かる。

W.Fisher,Williamほか, (June, 2004) "iTunes --- How Copyright, Contract, and Technology Shape the Business of Digital Media - A Case Study", Digital Media Project team at the Berkman Center for Internet and Society, Harvard Law School

この論文で調査チームが明らかにしようとしているのは、iTunesの音楽配信ビジネスをめぐる著作権法、契約法、テクノロジーの関わり。2003年春に米国でサービスを開始したiTunes Music Store(iTMS)が、EU各国や日本と中国においてサービスを展開する際に、どのような課題をクリアしなければならないかについて法的な側面から検討している。(英独仏では2004年6月にサービスが始まっている)

全文を精読したわけではないのではなはだ自信がないが、デジタル商売と法律との関わりを考えるうえでのキーワードを備忘録としてメモしておきたい。もし間違った記述があればご指摘ください。よろしくお願いします。

Fair Use(フェアユース)
公正使用ともいう。私的な使用や調査研究のためなら、他人の著作物を複製することが許される。たとえばCD-ROMの電子辞書を買ってきて、自分のノートパソコンにコピーすることは公正使用である。音楽CDだって同じはずだが、レコード各社は一時、CCCD(コピー防止CD)を作り、音楽ファンから大ブーイングを浴びたため撤回している。金を出して買った消費者側の重要な権利のひとつ。

First Sale Doctrine(消尽理論)
国立国会図書館の「カレントアウェアネス」によると、「著作権者はその著作物の複製物を売却その他譲渡する排他的な権利を持つが、ひとたびそれを売却するとその権利を失い、買主は制約なくそれを処分できるという法則」(カレントアウェアネスNo.211 1997年03月20日)という説明がなされている。紙の本の場合、著者や出版社が読者に本を売却したことで、本に盛り込まれている著作権は消尽(exhauste)してしまうと考えられる。著作権は最初に本を買った人が消尽しているので、それを他人に譲渡するのは自由である。古本市場の正統性はここから導き出せる。だが、iTunesで扱う電子楽曲ファイルは、なんどコピーしても時がたっても劣化しない。だから、べつの枠組みを考える必要がある。Appleは "Digital First Sale Doctrine" というモデルを提示しているようだが、わたしはまだそこまで読んでいない。すまぬ。

Reverse Engineering(リバースエンジニアリング)
ウィキペディア日本語版は「機械を分解したり、ソフトウェアを解析するなどして、製品の構造を分析し、そこから設計図やソースコードを作成する事である」とざっくり説明されている。たとえば、腕時計を買ってきて、ねじ回しでバラバラに分解して、時計の仕組みや構造を調べたとしても、なーんにも問題はない(元通りに組み立てられるかどうかは別問題)。それはソフトウェアについても同じはずだ。だいたい、小説という著作物は、ソースコードがそのまま作品になっているようなもので、文芸評論のなかには「リバースエンジニアリング」といえるような作品もありそうだ。メーカー系技術者は嫌うかもしれないが、セキュリティホールやバグの場所・原因の特定に利用されれば社会にとって有益。著作権法で許容される行為であるはずだが・・・

Override(オーバーライド)
ひとつの事例をめぐり、2つ以上の法律がぶつかることがある。overrideとは、どちらが勝つかを現す表現。iTMSの論文で紹介されているのは、著作権法と契約法のどちらがオーバーライドするかという問題。Appleとしては、ダウンロードされた楽曲ファイルが消費者によって無制限に複製されると、2次流通市場が形成されかねない。そこでAppleは利用者との間で契約を交わす(契約といっても後述の Clickwrap 契約で、あんなのを精読する人はいないだろう)。この契約の中でAppleはユーザーの著作権を一定程度制限しようと試みる。楽曲のCD/Rへの複製回数を制限したり、楽曲ファイルの譲渡を禁じたり…… そこで考えなければならないのは、著作権法と契約法のどちらがオーバーライドするのか、という問題。米国では当事者間の契約が著作権法に優先するが、これは地域や国、文化や時代よって大きく異なる。特にEU圏内では区によるバラツキが大きく、Appleとしてはやりにくそうである。

ClickWrap(クリックラップ)
Clickwrap License Agreement(クリックラップ・ライセンス契約書)という言い方が一般的。上記ですでに書いた「・・・・同意しますか? > はい/いいえ のどちらかをクリックせよ」みたいな契約。「いいえ」を選べばサービスが受けられないので、だいたいの人はなーんにも考えずに「はい」を選ぶ。正式な契約として認められている。個人的に問題だなあと思うのは、非英語圏の人が米国のアダルトサイトを見に行き、わけもわからないままクリックラップ・ライセンス契約書にサインしてしまうこと。あとでしっかり請求されるので要注意。

DRM
Digital Rights Managementの略で、「デジタル著作権管理」などと訳される。法的な取り決めではなく、技術力でデジタル著作物の権利を守る仕組みのことだ。技術力のある会社がテクノロジーで消費者の権利を踏みにじるときの言い訳・・・・と表現すると言い過ぎだろう。たとえば、1ヶ月で中身のデータが自動的に消去される映画のDVDも、DRMの一種だ。技術力こそ力なり。AppleのiTunesは法的なものと同時に技術的な制約を施している(楽曲のプレイリストからCD/Rに複製できる回数や、ダウンロードできるコンピューターの台数など)。DRMの技術が過度に進んでしまうと、消費者の権利はもとより社会全般にとっての利便性は縮小するはず。

■参考になるサイト
awake in a muddleさんの日記
Mc.N Homepage SDKさんのDRM関係のページ
笹山登生の雑感&情報の日記
国立国会図書館カレントアウェアネス
アップルのiTunes宣伝ページ
ITmediaのライフスタイルニュース
Creative Commonsの記事The WIRED CD: Rip. Sample. Mash. Share.
日経 IT Proの記事「顧客志向が必要な日本の音楽配信」

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コメント

何だかヘンだけど、自己コメント。

TBしてくれたギタリストの福島しろうさんのサイトを見に行った。

福島さんは、DRM処理をしていない楽曲のサンプルファイルを公開し、ニフティの@Payをつかってオンライン販売をしている。と同時に「着うた」への展開もされていた。いまどきの独立系ミュージシャンは、デジタルやネットに強くなければならないんだよな、という思いを強くした。

福島さんのジャンルはフュージョン系のジャズ。多くの人にサンプルを聞いてみてもらいたい。

それにしても、大学院のゼミで議論したことをチョロっと書いたら、デジタル最前線の音楽家からTBしてもらえるというのは、ウェブログならではですね。

投稿: 畑仲哲雄 | 2004年11月27日 (土) 10時22分

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何か変わるか? 変わるかも知れない。 でも、それは音楽配信ビジネスのことだけじゃ [続きを読む]

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