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2004年11月 6日 (土)

表現の自由か人権か、それとも

カタールのニュース専用衛星テレビ・アルジャジーラの公式サイトに死体が載らない日はないのではないか
11月4日の各社報道によると、(1)イラクで殺害された故・香田証生さんの写真画像がインターネットの掲示板に掲載され、(2)法務省が掲示板運営者に対して画像掲載は人権侵害に当たるとして削除を要請した。この事実をどう受け止め、どう考えるか。

いくつかのサイトを見たり検索してみたりしたが、〈表現の自由〉をめぐるクールな議論が見あたらない。見つかるのは感情むきだしの意見ばかり。今回の香田さんのケースでも、ザルカウィへの怒り、画像をアップロードしたり紹介した人への怒り、香田さんを“見殺し”にした小泉首相への怒り…… そして殺害される画像/映像を見たことへの後悔・嫌悪・悲しみなど、感情を前面に出した文章が多い。国家によるコンテンツ削除要請の是非はすり抜けていく。

少し頭を冷やして整理したい。

○表現の自由か人権か
・法務省が掲示板から写真を削除するよう申し入れた行為が、表現の自由や国民の知る権利への干渉となるかどうか。戦争の悲惨さを訴える手段として、新聞や雑誌が遺体を掲載したことは珍しくはない(ベトナム戦争では、人が殺害される場面や遺体の写真は繰り返し報道され、戦争の現実が知れわたった)。一つのポイントは、犯人が公開した映像/画像に公益性があるかどうか。
・香田さん本人や遺族の人権が守られるために(あるいは、青少年への配慮として?)、法務省が掲示板運営者に申し入れる十分な理由があったかどうか。殺害場面が人目にさらされるのは重大な人権侵害。香田さんは私人。国家によって守られるべき。ならば、香田さんの生命そのものが守られるべきだったはず。また、同様な人権侵害はいくらでもあるが、なぜ今回だけ?

○利敵行為? 厭戦世論を抑制?
・犯人グループに利することを避ける必要があったかどうか。犯人グループは日本政府に対して自衛隊撤退を求めていた。政府は拒否した。結果、犯人は予告通り殺害を実行。映像は犯人が撮影し公開した。これが多くの人の目に触れることを望んでいる。(チリ大使館人質事件の際、単独取材を試みたテレビ記者が「テロリスト側に利用された」とバッシングを浴びた。不法行為の幇助になる可能性もある)
・対米配慮を続ける政府は、厭戦ムードの高まりを抑えたい。大量破壊兵器もなく戦争の大義が消えた後も、対米配慮を続けなければならない苦しい立場に立たされている。戦争のむごさを訴えるコンテンツは隠したい。時の政権の思惑と、国民の利益とはどうバランスするのか。

ーん、やっぱり、すっきり整理できない。すみません。

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コメント

日本人外交官の死体画像が流出(WEBおよび一部週刊誌のみ)したとき、法務省の対応は「コピペしないでほしい」みたいなお願いの形だったと記憶しています。いつ子先生に「報道の自由の勝ちなんですか? お願いしかできないんですか?」とお尋ねしました。お答えは「重い問題で難しいが、公益性があると言えるんじゃないか」ということでした。ぼくは「死体を晒されたくないという死者の感情や、遺族の感情は、プライバシーの権利として尊重されないのか。そういう点を重んじる文化を持つ国もあるということを、世界に理解してもらう努力をすべきではないのか」と言いました。まあ、そう言ったところでどうにもならないわけですが…。

で、例のアレは「頭を冷やし」た人がほとんどおらず非常に偏っていた、というわけであります。

投稿: 吉田@SAS | 2004年11月 7日 (日) 08時54分

吉田@SASさん、コメントをありがとうございました。

ご指摘の通り、日本人外交官のときも同様の問題がありました。公務員が公務中に殺害されたケースと、今回のように私人が旅行中に殺害されたケースとで、「公益性」は若干変わってくるような気もしますね。

一見残虐なコンテンツでも、コンテキストによっては、平和を訴えるための武器になり得ると思うのです。中東の「テロリスト」はたしかに、自衛隊の撤退を求めていますが、日本の「サヨク」「リベラル」も、同じ主張をしているわけですから、片方を否定すれば、もう片方も同時に否定されることになります。

プライバシーや名誉など人権は重要だと思います。しかし「青年の死を無駄にしないため利用する」という公益に軸を置く道も残しておく必要はあるかも、というのが私の意見です。法務省の削除要請は、後者の可能性を閉ざしてしまう気もするのですよ。

ところで、「例のアレ」については、吉田さんのブログで書かないのですか?

投稿: 畑仲哲雄 | 2004年11月 7日 (日) 09時48分

あれ、メールがきたと思ったら、こっちにも同じ内容が。

触れてなかったので申しわけありませんでしたが、公益性はあると思うんですよ。受動性の強い(って言うのかな)テレビや新聞では、おばあちゃんがショック死しないように殺害画像を載せず、WEBを放置しておくくらいがちょうどいいってことなんですかね。

「片方を否定すれば、もう片方も同時に否定されることになります」が、頭が悪くてよくわかりません(笑)。じっくり考えればわかるような気もしますが、誤解しそうなのでちょっと教えてください!

「お願い」とどのくらい違うのか知りませんが、削除要請したくらいでは実効性はないでしょう。暖簾に腕押しだろうけど、それによって遺族も少しは報われるんじゃないかなという感じです。いきなりボンと公益性の中にぶち込まれたら、外交官だろうと誰だろうと、心の準備はできていないと思うんですよ。

このへんについては、多田野事件として、いつ子先生の授業で発表したことがあります。他にも見ていただきたいかたがいて、資料を探しておこうと思っていたところです。

例のアレはそういうわけで面白くなかったので(笑)。自分で書くのは大変ですが、畑中さんのに反応するのはラクです。お知らせメール来るとどうしても見ちゃいますからね。もっと忙しくなったら、ゴミ箱行き設定にしちゃおうかな(笑)。

投稿: 吉田@SAS | 2004年11月 7日 (日) 15時14分

吉田@SASさん、どーもです。

>誤解しそうなのでちょっと教えてください!

う…。書いたわたしの頭が悪かった! あまり深く考えずに書いているので…(^^; この問題がかなり政治的な次元になっていることについては、鈴木さんのブログに書かれています。わたしも同じ思いを抱きました。
www.asvattha.net/soul/index.php?itemid=393

>いきなりボンと公益性の中にぶち込まれたら、外交官だろうと誰だろうと、心の準備はできていないと思うんですよ。

たしかにそうかも知れません。当事者にとってはたまらないことでしょうから。

ところで「多田野事件」は、吉田さんお得意の野球の話ですね。いつ子先生の授業で発表されたときに聴きたかったな。

投稿: 畑仲哲雄 | 2004年11月 7日 (日) 21時59分

 こんばんは。
 なかなか硬派なテーマなので、得意じゃないのですが…。

 問題の掲示板(2チャンネルですか?)を見てないので、どんな画像なのかわかりません。はずしたことを書くかもしれませんが、もし殺害時ingの写真だったら、掲載者がどのような意図で載せたのか、主義主張があって載せたのかがポイントではないでしょうか。表現の自由を主張するなら、きちんとしたコメントを書いているでしょうね。

 インターネットは規制が何もないから、載せていいもの、悪いものの倫理規定的なものもない。インターネット利用者には大人もいれば、未成年もいるので、なんでもかんでも見せていいのかという気はします。自主規制ができて、自浄作用が働くような世界なら、国家権力が削除しろと言っても「表現の自由」を盾にできると思いますが…。

 今回の殺人事件(犯罪)も戦争の犠牲者としてとらえられているのでしょうか。非合法のテロだから犯罪、空爆による攻撃(殺人)は合法的だからいいのか、戦争の犠牲者としてイラク人の死者は10万人を越えているとの報道があります。日本人1人の死とイラク人10万人の死の違いはなんなのでしょう。

 テーマからずれて来ちゃったので話を戻しますが、掲示板に掲載した人の意図を知りたいですね。

投稿: ヒロ | 2004年11月 9日 (火) 23時36分

ヒロさん、コメントをありがとうございました。

>どのような意図で載せたのか、主義主張があって載せたのかがポイントでは
>表現の自由を主張するなら、きちんとしたコメントを書いているでしょうね。

あの映像/画像を撮影した犯行グループには明確な主義主張があったといえますよね。一言でいえば「日本政府は自衛隊を撤退させろ」です。しかし、犯行グループの撮影した映像/画像を紹介した(犯行グループ以外の)人がどのような意図を持っていたか不明です。猟奇趣味かもしれませんし、遊び半分かも。

ただ、わたしが気になったのは、掲載・紹介者の意図はどうあれ、政府が即座に削除要請したという事実です。

映像/画像が公開され続けることは、香田さんのご遺族にとって許し難いでしょうから、法務省の今回の判断に異論を唱える人はほとんどいないと思います。でも、映像/画像を人目から隠すことで、失われてしまうものもあるのではないでしょうか。

こういう言い方をすると、遺族には申しわけありませんが、あの映像/画像もイラクの現実を伝える有効な素材かもしれません。イラクでは現実に数多くの人が命を落としているわけですし、その悲惨さは想像に余りあるものです。そうした現実に触れる機会が減ることは公益を損なうことになりかねない--というのはメチャクチャな主張でしょうか。アルジャジーラのサイトには毎日のようにイラク人の死体写真は掲載されています。牽強付会を続けると、撮影者が報道機関であれ犯人グループであれ、それらを見た人たちがそこから何かを学び、何かを得ることができれば公益に寄与していると言えるのではないかな、とも思うわけです。もちろん、それを「公益」にするかどうかは、われわれの課題ですが...

その一方で、犯人グループが撮影・掲載したものを無批判に紹介することは、犯人グループに利することになりかねないとも言えます。犯人グループが今回のような手法でインターネットを利用したという事実は、決して軽いものではありません。犯人グループは“情報戦争”をしているのでしょう。日本の法務省が2~3の掲示板に対して削除を要請しても、世界中のサイトから抹殺できるわけもなく、ほとんど効果がないことは吉田@SASさんがコメントしてくれたとおりです。わたしたちに恐怖を与えることが犯人グループの狙いであれば、一連の“処刑映像”をネットに載せるという手法は、劇的な効果をあげているかもしれません。

話は飛びますが、その昔、「豊田商事事件」で、創業者の男性が刃物で虐殺されるという事件がありました。しかも報道機関の記者やカメラマンが大勢いる前で堂々と。翌日の新聞各紙には凄惨な写真が掲載されました。あの報道の正統性は結局のところ受け入れられ、今回の映像/画像が許されないのだとすれば、その違いは何だろう……。まさに問題は「政治」ではないかな、とわたしは思うわけです。

なんだか訳の分からない独り善がりなことを長々書いてすみませんでした。

ヒロさんのコメントに対するわたしの意見をかいつまんで言うと、映像/画像を紹介した人の意図は、この際どうでもいいような気がしているのですよ。小一時間問いつめても、なにも得るところがなさそうな気がしてなりません。

投稿: 畑仲哲雄 | 2004年11月10日 (水) 01時02分

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