違法な職質は増えている?
やや旧聞だが、元衆議院議員の白川勝彦さんが、違法な職質の被害に遭ったことを自らのウェブサイトや雑誌などを通じて公表している。それによると、いまからちょうど1ヶ月前の11月8日、渋谷の公道で、突然4人の警官に取り囲まれて、持ち物を見せろ、財布の中身を見せろと迫られたという。
できれば多くの人に記事を読んでほしい。東大法学部在学中に司法試験→弁護士→自民党の代議士→元自治大臣・国家公安委員長という白川さんにしても、「公務執行妨害で逮捕される」ということが大きな心理的負担になり、密室に連行されることを避けようとしていることがよく分かるはずだ。白川さんの場合は、万が一不当に逮捕されたとしても、あとで渋谷警察署長が土下座しなければならないと思うが、フツーの人の場合を考えると怖気する。
かく言うわたしも、かつて違法な職務質問の被害に遭ったことがある。わたしの場合、時間帯が夜で周囲に人がいなかったことと、夜勤で会社に行く途中で急いでいた。警官は往来を妨害して「やましいことがないのなら持ち物を見せろ」の一点張り。しばらく押し問答したものの、仕事に遅れると同僚に迷惑がかかるという気持ちが働き、任意という名の実質的には強制的な持ち物検査に応じざるをえなかった。不正義が行われたことは、正直くやしかった。わたしは最初から名刺を差し出して勤務先も連絡先も伝えていたが、富坂警察署地域課巡査部長のイトウは、「なに? 共●通信? なら薬物の可能性もあるな。財布の中身を見せなさい」という意味のことを言った。富坂警察署地域課長のワダ氏はわたしに電話で謝罪をしたが、問題はそういうことではない。白川さんも書いているように、市民的自由の侵害が頻発していることが悲しいのだ。
ここでわたしが思い出すのは、森達也監督の映画『A』で、オウム真理教の幹部が警察官によって暴行を受けた後、「公務執行妨害の現行犯」で不当逮捕されるシーンである。衆人環視のなかで圧迫的で虐待ともいえる職務質問が行われている場面を、森監督はしっかりカメラに収めた。このとき通りで多くの人が見ていた。だけど、だれも何もしなかった。そんな中でオウム幹部は虐待され自由を奪われ拘禁された。これと同じことが、わたしにも起こり得たし、元国家公安委員長の白川さんにも起こりえた。
遵法精神に乏しい警官は、コミュニケーション能力もなく、知能も低い。もし、そんな場面に遭遇したら、運が悪かったとあきらめるしかない。だけど、せめて、日弁連の当番弁護士の番号くらいは携帯電話のメモリに入れておこう。
■悪質な職務質問に遭ってしまったら
日弁連-当番弁護士について
東京都公安員会の苦情受付について
■悪質な職務質問に遭う前に
自由法曹団京都支部「警察から身を守る5カ条」
千代丸健二の人権110番
権力の弾圧と闘う救援センター
国賠ネットワーク
法律及び人権を守らない警察
ダイワ建設・今週の雑学「職務質問に対応する方法」
サルでもわかる法律講座「刑事法講座《実践編》」
■警察官関係資料
警察白書
警察庁の訓令・通達
警察関係の法令・訓令等
警察官職務執行法
国家公安委員会・警察刷新会議「緊急提言」
自由法曹団・警察改革への緊急提言
『別冊判例タイムズ No.11』警察実務判例解説(任意同行・逮捕篇)
地域実務研究会著「地域警察官のための 現行犯人逮捕手続書・緊急逮捕手続書作成の手引き」(立花書房)
職務質問実務必携(地域警察研究会編)立花書房
警察公論(立花書房)平成14年1月号[第1回]職務質問の心構え/相良真一郎
田中一京著「警察官の犯罪捜査マニュアル」(青年書館)
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コメント
違法な職質粉砕の会を作らねばいけません。
それにしても警察官は横暴ですね、日々の勤務の中でなにか大事なものを忘れていってしまうのでしょう。がっかりです。
風貌のあやしい?記者さんなんかはそれこそ被害にあう確率が高い。わたしもですが・・・。
でも一度がんばって、代用監獄にいっててみるのもいいかもしれません。
山本ジョウジさんじゃありませんが、中に入って見える人間模様はなにものにも変えられないものになるかも。
わたしは調査済なので・・・違法な職質とは闘えませんたぶん
投稿: JOHNY | 2004年12月 9日 (木) 21時28分
JOHNYさん、コメントをありがとうございます。
悪質な職質が近年とみに増えているのだとすれば、オウム事件がひとつの契機だったのではないでしょうか。米国の場合は911によりセキュリティ意識が高まったと言われていますが、日本では10年ほど前に起こったマス・ヒステリーと言える社会現象がターニングポイントになったとわたしは考えます(・・・あくまでも印象論ですが)。
当時は、保守であろうと革新であろうと、社会階層が高かろうが低かろうが、男性であろうと女性であろうと、《ニッポン》が一丸となって《オウム撲滅》のために、市民的な自由や権利を積極的に放棄したように映りました。
投稿: 畑仲哲雄 | 2004年12月 9日 (木) 23時37分
>市民的な自由や権利を積極的に放棄したように
そういう意味では私は違う印象を持ちました。
市民は意外と冷静だったと。
その一方マスメディアと行政権力は増長したような気がしています。
おもうに私たちは社会というものを見るとき、個々人を見ることをせずに、想像の社会というものを見て判断するきらいがある。そんな癖がついているように感じます。
投稿: JOHNY | 2004年12月13日 (月) 12時47分
JOHNYさん、コメントをありがとうございます。
「(人々が)市民的な自由や権利を積極的に放棄した」のではなく、「市民は意外と冷静」で、「マスメディアと行政権力は増長した」というJOHNYさんの指摘も傾聴に値します。じつは数ヶ月前に森達也監督の『A』と『A2』のDVDを購入して、あらためてじっくり観てみたのですが、ヒドイんですよ、どいつもこいつも。はぁ、、、、タメ息ばかりです。
投稿: 畑仲哲雄 | 2004年12月13日 (月) 21時17分
初めてこのページを見ました。これは投稿する程の問題ではありません。酒を飲んで無灯火で自転車に乗っていて職質にあい自分に非があったわけです。最初から自ら免許証や荷物の中身を見せ積極的に協力しながらも悪態はついてました。すると一回り自分より若そうな警官が来て散々人を見下げゲーム感覚で馬鹿にした侮辱発言を繰り返す行為に出てきて、こちらは全部見せてるのに警察手帳の提示を求めるとそんな法律は無いと云うのです。こちらも散々彼を侮辱し子供の喧嘩になってしまいました。私は自分の非を認めているがそれでもああいう権力で一般人を侮辱する態度に出られると腹が立つ。後で署に電話したらまともな責任者が応対し当人と無線で話をして頂き、手帳を見せなかった事は厳重指導すると言ってくれました。しかし侮辱については否定。だから溜飲が下がったわけではありません。誠実な警官もいるが本当にいやらしい性格の警官もいます。自分が悪いと分かってても不愉快でもっと当局は教育に力を入れて欲しい。近頃は迷宮入りの事件が増えています。気持ちの良い警察にはもうならないんでしょうか?
投稿: 匿名 | 2008年11月 1日 (土) 07時30分
匿名さん
ひどい目にあいましたね。
どんな職業でも多くはふつうの人だと思いますが、悪質な人も少数いますよね。悪質な警官に職質されたら、携帯電話から当番弁護士に電話するしかありませんね。あと、可能ならば、ボイスレコーダーの録音ボタンを押し、警察手帳をデジカメで撮影させてもらいましょう。
http://hatanaka.txt-nifty.com/ronda/duty_attorney.html
投稿: 畑仲哲雄 | 2008年11月 1日 (土) 21時05分
違法な職務質問に反対するネット署名を始めました。
詳細は下記URLを参照してください。
http://www.shomei.tv/project-311.html
この署名があったからといって何も変わらないかもしれない。
でも、何もしなければ何も変わらないと思うんです。
投稿: HALT | 2008年11月11日 (火) 21時52分