住民参加と読者参加
「住民参加型の電子自治体」と「読者参加型のオンライン・メディア」は似ている。どちらも、一方的なサービスの受け手だった人々が、積極的に発言をしたりアイデアを出したりする。これって、陪審制や参審制にもどこか通じているのではないかな。つまり、みずからが所属する世界を主体的に考える(あるいは統治する)という、民主主義の原点に根ざした考え方だ。理念が高邁になりやすく、周囲からも理想化されやすい。それゆえにある種の脆さはらむような気がする。
「たった一つの不規則発言で、それまで活発に議論が重ねられてきた自治体の電子掲示板が、崩壊してしまうことってあるんだよね」――電子自治体の研究をしている院生仲間からから聞かされた台詞だ。そうした現象はオンライン・メディアでも起こりうるし、類似の現象はわたしも見てきた。人に不快な思いをさせることに喜びを感じる人もいるし、社会を逆恨みして打撃を与える機会をうかがっている人だっている。すべての人がみんなのために自らすすんで負担をしたり貢献をしたりすると考えるのは、少々おめでたい。
ただ、(想像にすぎないが)陪審裁判では、人はそれほど無責任になれないような気がする。参加者は現実に裁判所に出向かなければならないし、じぶんの発言・行為が特定の人に少なからぬ影響を及ぼすという緊張と自覚を強いられる。何よりも、発言者・行為者がどこのだれかということが最初から可視化されている。つまり、ハンドルネームを使って言いたい放題のことが言える電子掲示板やブログのコメント欄とでは“重み”がぜんぜん違うのだ。
オンライン・コミュニティというのは気軽に参加できるから面白いと考える人も少なくない(わたしもそれには大賛成だけど)。だけど、政治的なテーマや特定の利害がからむ内容について討論をするときには、参加者には(陪審裁判の“重み”に相当するような)ある種の制約を強いる必要があると思う。問題行動にペナルティを科すこととに躊躇してはならない。住民参加型の電子自治体や読者参加型のオンライン・メディアなどのような空間を設定しようと頑張っている人たちを腐らせてしまうのは、コモンズの悲劇の一種かもしれない。デューイよりもリップマンのほうが潔く思える今日このごろです。
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コメント
おかげで「住民参加型の電子自治体」と「読者参加型のオンライン・メディア」の意味をいろいろ考える機会となりました。ありがとうございます。
この問題については、よく分からない点が多いので困ってしまいます。どちらの場合も「参加」の意義について、まだ覚悟が定まっていないような気がします。
オンライン・メディアの当事者としては「問題行動」を引き受けるわずらわしさを覚悟できるかどうか。わずらわしさをできるだけ軽減するためのノウハウを開発できるかどうかが当面、かぎとなります。
投稿: schmidt | 2005年8月22日 (月) 12時00分
schmidtさま: こんにちは。生意気なエントリーを書いてしまいました。お恥ずかしい。なにか良い方法があればいいのですが、、、、選挙が終わったら一緒に考えさせてください。(「覚悟」というコトバに、ドキっとしました。むしろ覚悟をもつ必要があるのは個々のネット利用者ですよね)。
投稿: 畑仲哲雄 | 2005年8月22日 (月) 22時45分