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2006年1月31日 (火)

週刊読書人の書評

ゼミ仲間のFちゃんが先日、「週刊読書人」をくれた。ルーマン本の書評が載っているとのことで、ページを開くと、わが師・林先生が邦訳した『マスメディアのリアリティ』(木鐸社、2005年)を、東北大学文学研究科の正村俊之教授が評していた。正村先生といえばルーマン著『信頼』の共訳者の一人。『信頼』はルーマンの初期の作品で、数ある訳本のなかでも名訳とされている。名訳者である正村先生の書評をおずおずと読んでみると、この本にどのようなことが書かれてあるのかが、このわたしにも薄ぼんやり分かった(ような気になっただけかも)。

正村俊之「構築主義の立場からマスメディア・システムの特質を論じる」、「週刊読書人」書評、ニクラス・ルーマン著『マスメディアノリアリティ』、2006年1月27日

マスメディア・システムが世界のリアリティを構築しうるのは、いずれのプログラム領域においても「情報/非情報」というコードにしたがいながら、マスメディア・システムの外部領域をなす世界に関する情報の恒常的な生産を行っているからである。ただしそれは、マスメディア社会や世界に関する情報を「客観的」に伝えているという意味においてではない。リアリティが問題化されるのは、認識における何らかの齟齬が生ずるときであるが、その齟齬は、客観的世界と認識内容との矛盾としてではなく、認識内部の矛盾として生ずる。ルーマンによれば、マスメディアの社会的機能は、単に非情報から区別された情報の生産・伝達にあるだけでなく、劣化によって非情報へ転化した情報が人々の記憶を形づくるという点にある。そのようにして形成された記憶こそ、後続のコミュニケーションの背景となるリアリティを用意しているという。

ルーマンによると、法システムは「合法/非合法」という二値コードにしたがって作動する。学システムは「真/偽」、経済システムは「支払う/支払わない」、政治システムは「与党/野党」…… そして、システムとしてのマスメディアは「情報/非情報」というコードで作動する。マスメディアは、オートポイエティックなシステムであるというのも納得しよう。オートポイエティックとは生物学の世界で確立された考え方で、開放性と閉鎖性を兼ね備えた自律的なメカニズムを表すことばである。マスメディア・システムは、内と外に分けられ(というか、分けられなければシステムは成立しないのだが)、環境から刺激を与えられるとともに環境に刺激を与えもする(開放性)。そして、マスメディア・システムのコミュニケーションは、コミュニケーションを内部で再生産し続ける(閉鎖性)。このあたりは、クニールとナセヒの『ルーマン 社会システム理論』(新泉社、1995、舘野受男ほか訳)を読めば、おぼろげながらも、云わんとするところはつかめる。おそらく、この本のキモは、リアリティをめぐるラジカルな「構築」なのだろう(まだ少ししか読んでいないのでよく分からないのですが)。

とくに面白いと思ったのは「マスメディアの社会的機能は、単に非情報から区別された情報の生産・伝達にあるだけでなく、劣化によって非情報へ転化した情報が人々の記憶を形づくるという点にある。そのようにして形成された記憶こそ、後続のコミュニケーションの背景となるリアリティを用意しているという」という箇所。ビッグ・ブラザーや黒幕のような主体が、現代版「パンとサーカス」としてのマスメディアを巧みに操って大衆操作をしているというよりも、新鮮さを失った記憶を形づくるリアリティの構築がマスメディアの機能であるということだ(と思う)。記憶がコミュニケーションを接続させていくという捉え方も、クールな気がする。

ルーマン理論にくわしいジャーナリストはほとんどいないと思う。でも、ルーマン的な世界を観察し表現しているジャーナリストはいる。わが師・林先生は『マスメディアのリアリティ』の「あとがき」のなかで、吉岡忍さんと森達也さんの文章を引用して具体例を示している。ルーマンは「初めて」という人は、まず「あとがき」を読み、次に「訳者解説-ルーマン理論とマスメディア研究の接点」を参考書片手に読み、それから第1章へ進むのが楽なような気がします。

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