修論直後の息抜きDVD
修論を提出したささやかな開放感から、睡眠時間を削って映画を観た。以下は映画の感想。ずーっと我慢してきたんだから、ちょっとくらい「ぽわーん」を許してほしい。
■井筒和幸監督『パッチギ!(박치기)』(日本,2005)
悲しくって悲しくて、とてーも、やーりー、きれーない・・・。このメロディーが頭から離れない。ヒロインたちが暮らす東九条は、わたしもどっぷり暮らした街。とても思い出深い。“オモニハッキョ”を記事にするため、高瀬川をまたいで40番地に日参し、オモニやアボジたちからいろんな話を聞かせてもらったことが昨日のようだ。新聞記者時代のわたしにとって、京都とは七条より南、九条より北だった・・・という個人的な思い出話は脇へおいて、映画は団塊世代が好みそうないかにもな直球モンだけど、多くの人に観てもらいたい。ちなみに、わたしの子供時分の大阪では「パッチギ」ではなく「パチキ」と発音されていた。顔面への頭突きについては、映画『月はどっちに出ている』(崔洋一監督,鄭義信脚本,1993)でも効果的に描かれていた。アニメ『エヴァンゲリオン』第4話「雨、逃げ出した後」でも脇役ガキ(大阪人)が「碇にごちゃごちゃ抜かす奴がおってみぃ、ワシがパチキかましたる!」とヌカしてけつかります。
■ スティーヴン・スピルバーグ監督『宇宙戦争』(War of the Worlds, 米,2005)
H.G.ウェルズが1898年に書いたSFの古典を、スピルバーグが現代を舞台にアレンジ。超娯楽。登場人物のひとりが(T.ロビンスだったかな)「大阪では宇宙人の巨大ロボを5体も倒した。俺たちだってできるはずだ」という台詞があり、道頓堀に飛び込むような阪神ファンやヤンキーたちがエイリアンにパチキを入れまくって大暴れしたことを確信した。映画の評価は3パチキ
■ アン・リー監督『ブロークバック・マウンテン』(Brokeback Mountain, 米, 2005)
山奥という閉ざされた環境で、身も心も解放された男2人が一線を越えてしまう。道ならぬ恋ほどいい切ない物語になるという見本のようなストーリー。はっきり言って、やられたなあという思いで観ました。ウィキペディアによると、アン・リー(李安)は台湾出身で、この映画でアジア人初のアカデミー監督賞を受けた。ベルリン映画祭金熊賞を取ったりしている実力派。町山氏は「男はみんなゲイである」などと書いているが、ほんまかいな? 堂々の5パチキ
■ ポール・ハギス監督『クラシュ』(Crash, 米, 2004)
人種・民族の対立を題材にしたバランス感覚のよい映画。レイシストの白人警官、黒人コミュニティから離れたエリート検事やTV番組ディレクター、たびたび強盗に押し入られ銃で防衛するペルシャ人の雑貨店主、白人への嫌悪を隠さない若いギャング・・・・ 避けがたい対立が重層的に織り込まれている。これも一種のルーマン世界なのか? なんか、やられたなぁと思う。4パチキ
■ ラース・フォン・トリアー監督『マンダレイ』(Mandaray,デンマーク・スウェーデン・オランダ・仏・独・・米, 2005)
思考実験めいた不条理もののストーリー。法制面では不合理な抑圧が解け、解放されたはずの黒人たちが、なぜだか、いまだにプランテーション農園で奴隷として暮らしている。“負荷なき自我”を前提とした諸個人が自由でいられる社会と、生存のため抑圧をも受け入れながら自己統治せんとするコミュニティという対比を念頭において観た。アメリカの民主主義を考えるヒントあり。『ドッグヴィル』 (2003)から観るべきだったかも。4パチキ
■ ジャド・アパトー監督『40歳の童貞男』(The 40 Year Old Virgin, 米, 2005)
漫画やアニメのオモチャ(フィギュア)を後生大事にしている中年男の泣き笑い。アメリカ版の電車男みたいなものかな。周囲の応援団が笑える。ただ、胸毛がぼうぼうで、さっそうと自転車通勤する姿は、日本のオタクとはちょっと違う。マイカーを持っていないことが、男としてそれほど情けないのか? 2パチキ
■ アレックス・プロヤス監督『アイ,ロボット』(i,robot, 米, 2004)
アシモフのロボット三原則もの。CGが面白い。非生命の自我問題は、他人に心があるのか、自分に自我や自由意志なるものがあるのか、といういわば広い意味での“セカイ系”につながってくるように思うのだけど、アシモフ系映画にそれを求めるのは酷なのだろうか。1パチキ
■ ロマン・ポランスキー監督『オリバー・ツイスト』(Oliver Twist, 英・チェコ・仏・伊, 2005)
ディケンズの教養小説を映画化。たまらんですね、こういう話って。社会福祉制度を考える原点かも。ちょい無理目のストートーリーだけど、ぐいぐい引っ張りこまれる。ディケンズがこの小説を発表したのが、明治維新より30年前のロンドンというのも、あらためてすごい。4パチキ
■ フランク・キャプラ監督・脚本・製作『素晴らしき哉、人生!』(It's a Wonderful Life, 米, 1946)
絶望のふちにある主人公が二流天使に救われるというおとぎ話。『スミス都へ行く』と同じくジェームズ・スチュアートが主演。ちょっとアホだが誠実で正直な青年が、町(都市)を牛耳る腹黒い大金持ちに屈することなく堂々と挑むという構成も『スミス・・・』と似ている。いわゆるエエ話。でも、当時としては斬新なつくりだったはず。4パチキ
□今後、できれば観たいなあ・・・と思っているのは以下の作品。
『ドッグヴィル』(ラース・フォン・トリアー監督, 2003)
→ マンダレイの続きですから
『グッドナイト&グッドラック』(ジョージ・クルーニー監督,2005)
→ 義務モンですから
『カポーティ』(ベネット・ミラー監督,2005)
→ 高音の発音を聴きたい
『そして、ひと粒のひかり』(ジョシュア・マーストン監督,2004)
→ 痛そうだけど
『ナイロビの蜂』(フェルナンド・メイレレス監督,2005)
→ 義務モンかも
『アメリカン・ドリームズ』(ポール・ワイツ監督,2006)
→ ブラックユーモアだそうですが、嗤えるかな
『ミリオンダラー・ベイビー』(クリント・イーストウッド監督,2004)
→ 褒める人多いから、いちおうチェックか
『嫌われ松子の一生』(中島哲也監督,2006)
→ これは同居人に先を越されたから
『売春窟に生まれついて』(Born Into Brothels)』(Zana Briski, Ross Kauffman監督, 2004)
→ 観られるのかな。でも、義務モンだろう
『C.S.A. Confederate States of America』(Kevin Willmott監督, 2004)
→ ドキュメンタリーなんだが、観られるかなぁ
『エドワード・サイード Out of Place』(Al St. John監督, 2005)
→ 著作をちゃんと読まなくては・・・
『麦の穂をゆらす風』(ケン・ローチ監督, 2006)
→ どうもIRAモン、アイルランドもんは気になる。またベルファスト行きたいす
『スペシャリスト/自覚なき殺戮者』(エイアル・シヴァン監督, 1999)
→ 主演がアドルフ=アイヒマン!
『ワイルド・パーティー』(ラス・メイヤー監督,1970)
→ オバカ系もたまには
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コメント
みましたね~さらにリストもいっぱいありますね。私も見習わねば。
パッチギ、みましたわたしも。井筒監督ってばすごいと思えた作品でした。そして オヤジキラー沢尻エリカに捕まったのはいうまでもありません。畑仲様は捕まりませんでしたか?
投稿: JOHNY | 2007年1月22日 (月) 03時18分
「パッチギ!」いいスねー。「ガキ帝国」も好きなんですけど。今年公開の続編に大期待っす。
投稿: brary | 2007年1月22日 (月) 08時25分
JOHNYさん、えー? 個人的には、看護婦役の女優さんのほうがよかったです。まあ、好みの問題なので、、、(笑)
braryさん、ええ!? 続編ができるのですか!またしても痛みがうずく内容なんでしょうね。
投稿: 畑仲哲雄 | 2007年1月22日 (月) 21時07分
すげえ。なんだこの「消化力」は・・。
ハリウッド流エンターテイメントだらけの脳みそが少し引き締まる感じがします。『麦の穂をゆらす風』
投稿: schmidt | 2007年1月23日 (火) 10時32分