言論談合
民主政という統治形態は約2000年にわたって低劣なものと考えられてきた。それが崇高な価値を持ったのはアメリカ革命以降のことだ。それ以前は、多数者の専制に陥りやすく危険で愚かな形態であると考えられてきた。たしかにデモクラシーほど腐敗しやすい形態はない。そんなことを考えさせてくれる“事件”が起こっていた。徳島新聞ウェブサイトに掲載された「議長が発言打ち切る 県議会代表質問、談合事件の刑事記録引用」の記事には、開いた口がふさがらなかった。これを言論談合と呼ばずしてなんと呼ぼう。
記事によると、徳島県議会2月定例会本会議が22日に開かれ、共産党の山田豊氏が代表質問に立った。このなかで山田氏は、すでに確定した刑事事件の記録を引用しようとしたところ、竹内資浩議長に発言を遮られ、発言することを禁じられた。刑事事件の記録とは、徳島で過去に起こった談合事件に関するものだ。徳島県議会では、この事件について事件記録を「引用」するには、前日の正午までに議長にあらかじめ「届け出」をしなければならなず、関係者を推測できるような引用や、長文の引用を「できるだけ避ける」という訳の分からない“ルール”が勝手に取り決められていた。これが《刑事確定記録に関する議長見解》と呼ばれるローカル・ルールである。
山田氏はこの《議長見解》に反したという理由で、それ以上の発言が禁じられ、途中までの質問にも答弁してもらえなかった。これにより、山田氏の自由が踏みにじられ、山田氏を代表者として選んだ有権者の権利も踏みにじられた。それだけではなく、議会制民主主義までもが汚された。反発した議員たちは議長不信任動議を提出したが、賛成少数で否決されたという。民主政がいとも容易に腐ってしまうかということを雄弁に語る事例である。
徳島の知人からは「地方議会なんてこんなもんやで」と諭されたが、こういう事件をきちんと報告することは、地方新聞の存在理由のひとつだろう。もし地方新聞社まで腐敗議会と共犯関係に陥ってしまったら、そういう地域からデモクラシーを没収すべきだ。
それにしても、全国メディアはこの種のニュースをなぜ伝えないのか。県版のニュースではないはずだろうに。
| 固定リンク
「journalism」カテゴリの記事
- 大学の序列と書き手の属性(2023.03.30)
- 2020年に観た映画とドラマ(備忘録)(2020.12.29)
- 議論を誘発する『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』(2020.08.20)
- 捜査幹部から賭けマージャンの誘いを受けたら 連載「ジャーナリズムの道徳的ジレンマ」第23回(2020.06.13)
- 取材源の秘匿について-産経新聞「主張」を批判する(2020.05.22)
「dysphoria」カテゴリの記事
- 取材源の秘匿について-産経新聞「主張」を批判する(2020.05.22)
- 「大手病」に対する「無難病」(2012.05.29)
- 「寝てたら起こされるかな」(2012.02.01)
- わが町は「禁」だらけ(2011.02.02)
- 基地と NIMBY (ニンビー)(2010.04.27)
「democracy」カテゴリの記事
- 2020年に観た映画とドラマ(備忘録)(2020.12.29)
- 被害者の実名報道について(2019.10.27)
- 始動 全国地域紙ネット(2017.07.03)
- 結党目的を失った大阪維新は解党すべきか(2015.05.18)
- 形式的な「両論併記」の罠(2015.05.17)
「politics」カテゴリの記事
- 2020年に観た映画とドラマ(備忘録)(2020.12.29)
- 4月20日夜、発表します(2012.04.05)
- 実力も運のうち(2012.02.14)
- 「寝てたら起こされるかな」(2012.02.01)
- 巻町の住民投票とdeliberative democracy(備忘録)(2011.02.04)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
漏れだけは読んでますよ。
投稿: 仲間由紀恵@6年計画 | 2007年3月 1日 (木) 23時46分