むかしの家計簿
母親が他界して1ヶ月がすぎた。荷物を整理していると、じつにいろんなものが出てきて驚かされる。なかでも目をむいたのが、母親の嫁入り道具目録だ。タンスや長持からコウモリ傘、下着に至るまで、すべての嫁入り道具が達筆で列挙されていた。新郎(わたしのオヤジ)に対して、祖父(つまり母親の父)が筆をとったものだ。娘を嫁に出す父親の心境はいかばかりであったのかと思いつつも、結婚が家父長制にもとづく家と家の契約であり、ちょっとやそっとの理由で破棄させない重みを持つものであったことが分かる。母親は生前よく、「女三界に家なし」と言っていたが、こういうものを見せられると、その言葉の意味を実感を伴って感じさせられる。
もっとも興味ぶかかったのは、家計簿である。私が生まれるか生まれないかのころ(40年以上前)から比較的最近までに、母親が日々の買い物をした記録が克明に記されている。
家計簿は昔の物価や社会情勢を知るうえでじつに興味深い。と同時に、わたしが幼いころ食卓にどんな食品が上っていたか、どのような人たちと付き合いがあったのか、どのような出費をしていたのかが実によくわかる。最初に目についたのは、鶏卵の値段がそれほど上がっていなかったことだ。卵はむかし高価な食材だったようだ。また食材を追っていくと、わたし自身は偏食の多い子供だったが、母親自身も食べ物の好き嫌いが激しかったことを推理できた。
誤字や当て字が多く、とてもじゃないが、他人様に見せられるものではない。だが、見ていて決して飽きることはない、データ集である。
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コメント
「嫁入り道具の記録」。数年前梨本宮伊都子妃のものを佐賀の鍋島文庫に探しに行きましたが出会えませんでした。ご実家の記録は歴史情報論的にとても貴重な史料ですね。
投稿: Ami | 2007年8月 7日 (火) 19時26分
>Amiさん
鍋島藩とは比べものになりませんが(笑)、とても面白い資料だと思いました。娘を嫁がせる父親もたいへんですね。
投稿: 畑仲哲雄 | 2007年8月 8日 (水) 08時46分
>娘を嫁がせる父親もたいへんですね。
・・・・きっと立派なお支度をされたのでしょう。国会図書館の近代デジタルライブラリーに嫁入り道具の映像があります。「嫁入り道具」で一本論文が書けそうですね。
投稿: Ami | 2007年8月 8日 (水) 21時33分
>Amiさん
NDL近代デジタルライブラリーですか! なるほど。雑事が一段落したら、足を運んでみたいです。この領域は、Amiさんの得意分野かもしれませんね。
投稿: 畑仲哲雄 | 2007年8月 8日 (水) 23時25分
>雑事が一段落したら、足を運んでみたいです
・・・・HPから入れますので、とりあえず今日にでも。驚くほど様々な資料を見ることができます。おススメです。
投稿: Ami | 2007年8月11日 (土) 19時26分