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2007年9月18日 (火)

文枝さんとヱヴァンゲリヲン

かれこれ10年前のこと。上方落語の大看板、桂文枝(5代目)さんが紫綬褒章を受賞した。会見を取材した知人からこんな話を聞いた。会見がはじまるすこし前、控え室の記者たちと文枝さんたちは、ついたて一枚で隔てられていて、文枝さんらの談笑が聞こえてきた。
「サンシ君、エヴァンゲリオンって知ってるか」
知人はわが耳を疑った。上方落語の四天王と呼ばれる大御所が、子供向けロボット・アニメをいたく気にしていたなど、にわかに信じがたかった。このとき「サンシ君」と呼ばれていたのは、文枝さんの弟子で、現在上方落語協会の会長を務めている桂三枝さん。彼は師の問いにサラリと受けた。
「ああ、子供さんがロボットに乗って戦わはるアニメですわ」
さすが、三枝さんである。

わたしも文枝さんや三枝さんに負けじと、TVシリーズ全26話(1995-96)と、映画『DEATH & REBIRTH シト新生』(1997)、『Air/まごころを、君に』(同)を立て続けに観た。そして先日、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』が封切られたので、同居人と見に行った

レイトショーだったことも影響しているが、劇場の客席を埋めていたのは10代のオタク少年たちというよりも20~40代の男女。ふつうの映画と変わりがない。テレビ放映が1995年秋から翌96年春までだったことから、当時の少年少女が10年の歳を取ったということもある。そして、登場人物の少年少女たちの表情も、どこかすこし大人びて見えた。描かれかたがすこし変わったのか、私の印象が変わったのがのどちらかだ。いずれにしても、みんな10歳ほど老けたのだ。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』のストーリーはテレビシリーズから若干変更されているようだが、いずれにせよ、この映画ではじめてエヴァに触れた人には、主人公シンジ君の心理の移り変わりがほとんど分からない。

シンジ君は、理由もなく攻めてくる使徒と呼ばれる敵と、ロボット(エヴァ)に乗って戦うことを余儀なくされるのだが、彼がエヴァに乗る理由は、(1)父親からの承認がほしい(2)自分だけ逃げるのは卑怯(3)自己犠牲で周囲が救われる--といった理由のため。なぜ敵が攻めてくるのか、なぜ世界がこれほど謎に満ちているのかといった問いは、謎のままにしておいてもよい。重要なことは自分の居場所を確かめること。・・・そんな閉じた世界は、じつはいたるところにある。

外回りの営業マンが営業に出る(エヴァに乗る)のは、(1)自己評価を高めたい、(2)同僚や後輩も営業に戦ってるのに自分だけが逃げるわけにはいかない(3)ちょっと無理をしてひと踏ん張りすることで会社や家族にメリットがもたらされる--ということではないか。ただし、近代の資本主義世界がなぜこのような姿をしているのか、なぜ予想外の障害やトラブル(使徒)が次々と襲いかかってくるのか、といった問いは、この際カッコにくくってもよいのだ。おそらく戦時中の兵隊さんなども、似たような世界を生きていたことだろうと想像する。(もちろん(1)しか眼中にない人間も相当数いる)

ある意味、神話的な世界観をロボットアニメに移し替えた点に、このアニメの面白さがあると考えれば、子供以上に大人たちがハマる理由は分かる。そして上方落語の大御所たちの嗅覚の鋭さにも、あらためて感心させられる。落語家にとって高座に上がることが、エヴァに乗ることなのかもしれない・・・ちょっとちがうかな(笑)。

エヴァにせよ、セカチューにせよ、冬ソナにせよ、スタートレックにせよ、大勢の人が熱狂的にハマってしまう現象が起こったとき、「バカ」「オタク」「ヘンタイ」「関係ない」などと見下したり嘲笑したりする行為は、ゆめゆめ慎むべきである。そんなことを、文枝さんや三枝さんに教えられて、10年がたつ。

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