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2007年10月31日 (水)

青空文庫10周年

Azbtn_2情けない。重大なことを見過ごしていた。インターネット利用者なら誰でも気軽に利用できる電子図書館「青空文庫」がことし7月7日に10周年を迎えていた。先日、東京新聞の記事を読み、恥じ入った。祝電ならぬ祝メールを送れなかった。10周年を記念して、青空文庫は、作品一式を収録したDVD-ROM付き冊子『青空文庫 全』を、約8000にのぼる全国の図書館に寄贈したそうだ。すばらしい!

青空文庫 Aozora Bunko http://www.aozora.gr.jp/

青空文庫を考えるとき、いつも頭に浮かぶのは「公共性」「パブリック」というキーワード。アメリカには古くから「パブリック・ドメイン(public domain)」という考え方があった。知的な何かを生み出した人には、他人からパクられないための排他的な権利が与えられるべきだ。でも、その権利が消滅した作品は「パブリック・ドメインに入った」と表現されてきた。日本語にすると、みんなのもの、共有物、公有・・・になったと表現してもいいだろう。

インターネットが普及する前、人々はあちこちでパソコン通信網が作り、いろんなソフトウェアを自作した。多くの日曜プログラマたちは、自作ソフトの排他的権利を主張せず、パブリック・ドメイン・ソフトウェア( PDS = public domain software) と称して、設計図であるソースファイルごとネットで公開した。わたしがパソコン通信を始めて驚愕したのは、PDSが豊富にあることと、「パブリック」なるものの概念が多くの人に共有されていたことだ。

べつにソフトウェアだけではない。著作権の切れた小説や文書などを、PDSのように共有する人たちも現れた。代表格はアメリカの「プロジェクト・グーテンベルク」かもしれない。そして日本では「青空文庫」がもっとも有名。わたしもたくさんの作品をダウンロードさせてもらった。

さて、DVD-ROM付き冊子『青空文庫 全』に収められた作品は約6500点(作家・翻訳家数は407人)にのぼるという。底本を電子化したのは、570人以上にのぼる「青空工作員」。みな自発的な参加者たちだ。ほんとうに頭が下がる…と思っていたら、わたしの名前も記されていた(汗)Noextension

すべての人は金のためだけに生きているのではない。「結局ゼニや」「地獄の沙汰も金次第」などというシニックな表現を体現するような人生を歩んでいる人もいるが、じぶんが敬愛する文学者の作品を、できるだけたくさんの人に読んでもらいたいという思い。工作員になることで、あこがれの作家とつながることができるという喜び。あるいは電子図書館という公共的な運動に参加する充足感。いろんなモチベーションがあるだろう。「人の善意を信じくらいなら、工作員の前にニンジンぶら下げてインセンティブを高めるべきだ」という人もいるだろう。だが、そうではない論理もあるということなんだな。

機会があれば、青空文庫の中心的存在である富田倫生さんにまたお目にかかりたい。でも、10周年を見過ごしてたことが心苦しくて、ちょっと恥ずかしいな。『スレイヴ』を出したときには本当にお世話になりました。

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コメント

 あれっ?コメントついていないねえ。ちょっとバタバタしていたので後でコメントさせてもらおうと思っていました。今のネットユーザーにはあまり響かない話なんだろうか。

 過剰な国益論や自己責任論、権利主張に走りがちな世の中だからこそ「青空文庫」的感覚が大事だと思う。

 PDSにはずいぶんお世話になった。別のところで「工作員」やるからね。

 著作権の保護期間延長には、わしも反対だ。

投稿: schmidt | 2007年11月 2日 (金) 23時16分

>schmidtさん
 コメントありがとうございます。
 時の流れを感じますね、しみじみと。
 どんな「工作」をされるのか、こんど教えてください。

投稿: 畑仲哲雄 | 2007年11月 3日 (土) 09時49分

畑仲さん、こんにちは。
富田さん、このブログを知ってひとこと。
「畑仲さん、経歴ロンダリングしてる」ですって。(^.^)

スレイヴでは楽しませていただきました。
10年記念の会にお誘いすればよかったですね。相変わらず、青空文庫はときどきメディアに出没しながら工作に励んでいます。

私は不良工作員ですので、工作というよりも新しい作家、新しい分野へ皆さんをお誘いする作品の耕作員くらいしかできません。でも、あの芥川文庫がずいぶんと育ちましたよ。

なにかの機会に新作を読ませてください。

投稿: 耕作員 | 2007年11月 8日 (木) 11時33分

>耕作員さま
 こんにちは。『スレイヴ』ではたいへんお世話になりました。青空文庫に少しでも関わることができたのは、ぼく自身の誇りでもあります。富田さんにもよろしくお伝えください。10年の節目に気づかなかったなんて、心苦しくて申し訳なくて、、、、恥ずかしいです。
 「論駄」はまさに無駄な議論と学歴ロンダリングを掛け合わせたコトバ遊びですが。富田さん、するどい!

投稿: 畑仲哲雄 | 2007年11月 8日 (木) 15時47分

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