ナポレオンはスターリン
物語は、農園主を放逐した動物たちが、夢の国づくりをするというもので、子供向け作品として読んだことがある人は少なくないだろう。だが、大人向けの作品としては読めば、この作品がロシア革命後のソ連を意味していることに気づく。農場の主役は人間から動物に移行し、「荘園農場」という名前は「動物農園」と改められる。
革命を提唱したのはヤギで、ヤギなき後に指導的役割に立ったのはブタ。当初、ブタは2匹いて、結果的に1匹が放逐されるのであるが、ヤギはレーニンを、2匹のブタはスターリンとトロツキーを指していることが分かる。スターリン役のブタは作中で「ナポレオン」という名前で登場する。働き者の馬や猫やカラスたちにも、モデルがあるはずだ。笑ったりゲンナリしたりしながら楽しく通読したが、共産主義革命の理想と現実をここまで冷徹に捉えていたオーウェルの洞察力に舌を巻くほかない。
これが実名だらけの評論や論説で書かれていたら、こじんまりしたアジテーションにしかならなかっただろう。ジョナサン・スゥイフトの『ガリバー旅行記』も個別具体的なモデルがあるのだろう。なければあんなもの書けない。小説家たちの、なんとジャーナリスティックなことか。そういえば、むかしの日本のジャーナリストたちも小説をよく書いていたなあ。いったいいつからフィクション/ノンフィクションの二項対立が生まれたのだろう。
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コメント
小説家転向の予感
投稿: 仲間由紀恵@6年計画 | 2007年11月25日 (日) 11時30分
>仲間先輩
予感じゃなくて悪寒ですよ、きっと。
投稿: 畑仲哲雄 | 2007年11月26日 (月) 01時03分