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2008年2月 9日 (土)

リスナーからの反論

田原総一郎さんのJFN系podcast「タブーに挑戦」が相変わらず独走中だ。このところリスナーからの相談・質問に田原さんが応えるというスタイルが続けられている。先週、田原さんは「若者」といえば「クルマが好き」と決まっているのに、最近は若者が自動車に乗らなくなったと嘆いてみせた。これに対し2008年2月7日放送の中で反論メールが読まれた。前回は翁のボケぶりを笑ったが、今回はすこし腹が立った。

田原総一朗のタブーに挑戦!」JFN配信、2月7日放送分

アシスタント ラジオネーム、ダイスモンさん、神奈川県にお住いの20代の方です。若者のクルマ離れが進んでいるとおっしゃっていましたが、当然じゃありませんか。クルマを持つだけの余裕はありませんよ。一流企業のサラリーマンなら余裕もあるかも知れませんが、そんな人は一握りです。80%の若者に余裕はありません。一生独身で、安い部屋を借りて、生活費を切りつめてクルマに乗ったって意味がないんじゃないですか?

田原さん よーく分かります、よく分かる! けどね、もうちょっと頑張ってほしい。つまりね、たとえば、日本とアメリカを比べて一番の違いは、上位100社の中で、ね、日本ではベンチャーで上位100社にはいっているのは、ただ1社。孫正義さんのソフトバンク。アメリカはベンチャーが7割くらい入ってます。だってねえ、たとえば、マイクロソフト、グーグル、ヤフー… いっぱいありますよ!

アシスタント みんな新しい企業ですね。

田原さん 新しい企業がどんどん出てきて、新しい人がどんどん出てくることで世の中が変わっていくんですよ。だから今の若いのは「貧しい」なんて言わないで。ね! たとえ中小企業であろうと、パートタイマーであろうと、そこでねえ、何か面白いことを見つけることです。面白いことに打ち込むことですよ。

アシスタント 80%の若者が、なるべく面白いことを見つけて…そこにビジネスチャンスがあるかも知れないということですか?

田原さん うん! 頑張ってほしい !!

田原節はその後も延々続くのだが、これ以上はかいつまんで説明したい。田原さんが言ったのは、
(1)一部上場のグローバル企業の勤め人は1割、中小企業に勤める人は60%
(2)一部上場の人たちの平均給与は700~800万円、中小企業の平均給与は270~280万
(3)フリーターなどでは200万以下の人もずいぶんいる
データの信憑性は別にして、田原さんはこうしたこうしたデータを列挙した上で、「がんばり方によっては、できることはいくらでもある。頑張ってください」と、ガンバレの繰り返しに終始。インタラクションは成立しなかった。

田原さんだけを責めるつもりはない。こうした言説はあちこちで見られる。じぶんの努力で名をなし財を築いた人物は、往々にして「頑張る」ことでだれでも成功者になれる、と素朴に信じているようだ。その証拠はじぶん自身。そんな人が孫正義のような希な人物を例にあげて、「ほらね」と指さす。

成功/失敗は、個人の努力に帰責する--人生相談に応じる人物の中には、じぶんや孫正義のような人間を「成功」させてくれたこの世の中に感謝こそすれ、社会を変革しようという〈政治〉を捨象することが多い。たしかに成功譚や英雄譚は人間賛歌ふうのよき物語を呈示する。だが半面、弱者を抑圧する新自由主義的なものを密輸入しているのではないか。

不安定雇用の多くは単純労働。働くうちに高度な技術を習得できる職種は少ないと言われる。額に汗して働いても働いても、生活保護受給対象の水準から抜け出せないワーキングプアがラジオを点けたとき、流れてくる声が「ガンバレ」「打ち込め」「面白がれ」という自己責任論の押し売りに終始すれば、しまいには憎悪しか生まないはずだ。

この問題は、「成功した」「一流の」「大御所の」「ご意見番の」などの形容句を冠せられる“たらふく食ってる”ジャーナリストには鬼門なのだろうか。

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コメント

第四の権力の人たちみんな年収を200万にしてみれば。

投稿: | 2008年2月10日 (日) 20時03分

>名無しさん
 年収を200万にしてみれば、どうなる?

投稿: 畑仲哲雄 | 2008年2月10日 (日) 23時20分

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