バールのようなもの
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』を見て笑ったのは久しぶりだ。なんと、「バール」という項目とともに、「バールのようなもの」という項目があるのだ。「のようなもの」という項目を作った人のセンスは尊敬に値する。「バール」という言葉は市販の国語辞典や百科事典で必ず取り上げられる項目だが、「バールのようなもの」を説明した辞書・辞典は、おそらく『ウィキペディア』だけだろう。
工具の「バール」 on Wikipedia
単位の「バール」 on Wikipedia
報道文の慣用表現としての「バールのようなもの」 on Wikipedia
「バールのようなもの」ってどんなモノ? on 47news
「バールのようなもの」で面白いのは、清水義範さんの同名の短編小説と、それを立川志の輔さんが落語に仕立てたことなどが紹介されているだけではなく、実際に朝日新聞、読売新聞、毎日新聞のサイトを「バールのようなもの」で検索できる遊びまで用意されていること。オンライン辞典ならではの面白さが発揮されているのもすばらしい。
ちなみに、報道文における慣用表現でわたしが気に入っているのは「つい、カっとなって」である。これについては小林信彦さんが『唐獅子株式会社』で茶化した。ヤクザの幹部が刑事の取り調べを受ける場面で、「動機は『つい、カっとなって』だな」と念を押されたとき、首を横に振り、「太陽がまぶしかったから」と答える場面があり、吹き出してしまった。
「つい、カっとなって」も、「バールのようなもの」も、おそらく調書を取る際の慣用表現で、手っ取り早く記事を書かなければならない記者が、それに引きずられただけであろう。世界はいつも複雑すぎるから、犯行の道具も動機も、おのずと縮減されていくのかな!?
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コメント
うちの母(73歳)は「カッとなって」を好んで多用します。
〈例〉
「こないだのバッグどしたの?」
「底が抜けたからカッとなって捨てた。」
バールのポピュラリティはそんなに高くないと思うのに、なぜハンマーでないのか不思議です。「バールのようなもの、を使うと押し込みに便利だよ」と教えてくれているような気すらします。
投稿: brary | 2008年2月28日 (木) 09時20分
>braryさん
反応していただきありがとうございます。
お母さんの「カッとなって捨てた」には笑ってしまいました。お年を召したかたは「ムカツク」などの表現にも「カッ」となるのでしょうね。
個人的には、「バール」は語感がいいと思っています。「バー」の力強さとに、フランスふうの「ル」という言葉が添えられていることで、粗野でありながらも、犯行の鮮やさを醸し出しています。それにくわえて「…のようなもの」という表現も謎が効いています。「ハンマーのようなもの」ではこうはいかない。
投稿: 畑仲哲雄 | 2008年2月28日 (木) 19時29分
関連項目
てこ
ここが面白かった。
バールか何かで
たぶんバールで
まず間違いなくバールで
てこで
気分転換に色々使ってみてもいいのに。
むしゃくしゃしてやった反省はしていない
も思い出してあげて。
投稿: | 2008年3月 4日 (火) 23時04分