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2008年3月17日 (月)

老けもん映画、またひとつ

Futon_barberこのところ中国づいている。昨夜は北京の路地裏に暮らす九十三歳の理髪師を主人公にした中国映画『胡同の理髪師』を神保町の岩波ホールで鑑賞した。北京五輪を目前に解体される直前の胡同の街。そこには昔ながらの商売道具を手に人々の家を訪れる老理髪師、チン爺さんがいる。老いた客たちも次々と亡くなり、骨董品なみの古時計も故障して動かなくなる。いわゆる老けもん系の王道をゆく映画ではあるが、淡々と描かれる日常の陰影と静謐が、生活世界を浸食するものに対する抵抗に思えた。

ハスチョロー監督『胡同(フートン)の理髪師』(原題:剃頭匠、英題:The Old Barber、中国、2006)

ドキュメンタリーではなく、ドキュメンタリータッチである。だけどチンお爺さんや胡同の住民たちは正真正銘、地元の人々。もちろんプロの役者も出演しているが、CGを多用した『ALWAYS 三丁目の夕日』よりも、圧倒的に力強く、メッセージ性も強い。手入れの行き届いた散髪道具と腕の確かな理髪師は、効率的に髪を整えヒゲを剃るだけの存在ではなく、街の人々にとって全人格的に受け入れられている。

古いものが滅び、新しいものに取って代わられる。街が変わっていくにつれて、人びとの対人関係や人間観、生活観も変わっていく。そんな世界にあって、最後まで背筋をシャンと伸ばし、泣き言を言わずに昔ながらの流儀を守って生き続ける老人たちの姿は、どこかなつかしい。こういう人々と知り合ったら、映画監督ならずとも、記録にとどめたいと思うはずだ。わたしが苦手な老けもん系映画のなかで、もっとも優れた作品でした。

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「cinema」カテゴリの記事

コメント

 わたしが高齢化問題の入り口に立ったばかりのころ「北京好日」(1992年)という作品があったのを思い出しました。
http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD16808/
 この手の作品は地方都市ではなかなか見られません。「北京好日」の場合も、上映運動に意識的に取り組んだ人たちがいました。

 最近、日本における映画の上映システムの現状を知る機会がありました。残念ながらすべては金次第、小屋次第。それに反発している人たちがごくわずかながらも存在することに少し安堵したりします。

投稿: schmidt | 2008年3月17日 (月) 05時05分

>Schmidtさん
 ご指摘のとおり、ミニシアター系の作品はつらいですね。DVDになったとしても、えらく待たされたり、高かったり。
 せっかく情報インフラが整備されつつあるのだから、オンデマンド上映のようなものが普及してほしいです。
 でも、企業に頼ってばかりではいけないので、ネットワークを組織化しましょうか! 興行的に大ヒットしないかもしれないけど、大切な映画を鑑賞したい人は少なくないはずですし。

投稿: 畑仲哲雄 | 2008年3月17日 (月) 12時43分

老けもん映画とはうまい言い方ですね。笑
先日行かれた上海もそうですが、胡同(フートン)もまた、どこか私たちが育った下町と重なる所があります。
やはり学生時代でしたが、北京に2週間ほど滞在した事があります。その時にふらふらと胡同に迷い込み、
おばちゃんにあれこれ言われながら囲みの外まで連れて行ってもらった事があります。
胡同の中で共同トイレを拝借したのですが、向こうのトイレはお尻を奥にして入り口の方向に顔をむけて
しゃがむのですよ。扉はないので顔を向き合わせながら用をたしました。
『晩のおかずは何にするの?』っていきなり聞かれて『??』はずかしいやらで困りましたよ。
なんだか懐かしい思い出です。

映画のネットワークの組織化、小さな組織はいろいろあるのでうまくまとまれば
もっともっとおもしろい良質な映画が上映できるかもしれませんね。

投稿: かのう@mo_no | 2008年3月17日 (月) 23時23分

>かのう@mo_noさん
 貴重な体験をたくさんされているんですね。あなどれないなあ。地元の人たちの生活や息づかいを知っているというのは、かなりの中国通(つう)ですよ、ほんまに。
 『胡同の理髪師』ですが、機会ががあれば、ぜひご覧ください。かのうさんなら、きっと「なつかしい!」を連発するかも。

投稿: 畑仲哲雄 | 2008年3月18日 (火) 23時09分

ハタさん、お久しぶりです。
主題の老けもん映画からははずれるのですが。。。「三丁目の夕陽CG」に関連して。。。

最近有線の日本映画チャンネルをよくみます。
特に気に入っているのがクレイジーキャッツのシリーズ。そこには(演出されているとはいえ)CGでない、60年代の日本の風景が。
ビジネス街や、麻布のマンション、世田谷あたりの瀟洒な住宅、そして多分完成したばかりの箱根のハイウェイとか。

娯楽映画として観るだけでは、ご推薦の映画とは比べ物にならないかもしれませんが、現代から観るとき、そこに当時の日本が目指していた「町創り」(国創り)というメッセージを読み取ることができて面白い、と思っています。

投稿: Ami | 2008年3月29日 (土) 11時08分

>Amiさん
 慧眼ですね。さすが!
 植木等が大暴れするクレージー映画はCGなどいっさい使われていない分、精いっぱいの舞台設定をしていますね。当時としては最高の高層ビルやハイソな住宅街、別荘地などが日本人の羨望を映し出していたというのは、まさにその通りだと思いました。

投稿: 畑仲哲雄 | 2008年3月30日 (日) 17時55分

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» 胡同の理髪師★足るを知る [おしゃれ手紙]
■胡同(フートン)の理髪師:あらすじ■♪音が出ます。北京の胡同に暮らす93歳のチンおじいさんは、現役の理髪師。古くからの顧客には出張サービスを行なうなど元気に働く彼だったが、周囲の老人たちが死を迎えることで、自らの死を意識するようになる。伝統的な建築様式の...... [続きを読む]

受信: 2008年3月17日 (月) 19時33分

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