『冷血』で語られた死刑執行人とは
犯人はいずれも貧しい米国人。1人は病身の父親をかいがいしく世話するアイルランド系の若者ディック。もう1人はアメリカ先住民を母に持ち、父親からの虐待から逃れるため妄想と現実を行き来する精神不安定なペリー。ディックは刑務所から出てきて間がなく、ペリーは朝鮮戦争から帰国し、足に障害を持っていた。およそ大胆なことができそうにない、いくぶん思慮に欠ける人物。そんな2人がある家に押し入る。
見方によれば希望を持てない“弱者”ともいえるディックとペリーが、そこまで残忍な犯罪をおかしたのか。2人を追う捜査官は、不可解な犯行の動機を語る場面がある。それは、この犯行がディックとペリーの2人によって実行されたのではなく、行動をともにした2人の間に第3の人格が現れた、というものだ。妙に納得させられた。集団心理の原初形態かな。
映画の中で描かれていたカンザス州の極刑は、日本と同じ絞首刑だった。拘束具をつけ、顔に袋をかぶせ、首にロープをかけて、足下の床が開けられる。床が開くと体が落下し、ロープが首に食い込んで窒息死する。落下直後に頸椎が折れて気を失うことが“期待”されている。そんなことをディックがシニカルに笑いながら週刊誌記者に語って聞かせるシーンがある。死刑執行の直前、雑誌記者が刑務所の官吏(?)に尋ねる。「(ロープを引っ張って床を開けて)執行するのは誰かね」。それに対する答えは……言うまでもありますまい。
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