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2008年7月18日 (金)

裏切り者の 『紳士協定』

Gentlemansagreement01プロ野球選手と情報番組キャスターの例を持ち出すまでもなく、公的な場で活動する人物は仕事だけで評価されるのではなく、仕事と直接関係のない行為においても厳しく評価される。エリア・カザンの作品『紳士協定』を観て感じたのは、いい映画だということ。だからこそ、彼がとった行動を許さない人が多いということもまた納得できる。

エリア・カザン監督 『紳士協定』 (原題:"Gentleman's Agreement"、原作:Laura Z. Hobson,米、1947)

この映画は、アメリカ社会のタブーである反ユダヤ主義を告発する社会派の名作である。主人公のフィリップ・グリーン(グレゴリー・ペック)があまりに高潔で、全体的に道徳調なのが鼻につくが、中高生が夏休みの課題などで作文を書くには良い作品かもしれない(先生にうまく指導できるかどうか分からないが)。なぜなら、聡明で良識的で信用されているような人の内面にある、克服しがたい偏見にうまく光を当てているためだ。つまり、社会の不正に理解がありそうに見える人であっても、いざ自分に影響が及ぶような事態を巧妙に回避することをうまく表現している。とりわけ、ヒロインが主人公にたいし「姉を驚かせ傷つけたくないから、あたながユダヤ人ではないと伝えておく」というような意味の言葉を放つ場面はよい。むろん、ローラ・ホブゾンの原作がよいのだが。

しかし、である。一見すると、社会の不正に勇気をもって立ち向かう社会派の映画監督と思われていたエリア・カザンが、アメリカの第2次の赤狩り Second Red Scare 時代に思想統制に協力した。カザンはこの一件で「裏切り者」の烙印を押されてしまったわけだが、カザンが見せた人間の弱さ、情けなさ、哀しさ……を(じぶんが被害を受けたわけでもないのに)居丈高に正義漢ぶって糾弾するのも、人間の他罰的な攻撃性、ある種の残酷さを垣間見るようであまり気持ちの良いものではない。

参考サイト
▽エリア・カザンのやったこと http://www10.plala.or.jp/shosuzki/edit/eliakazan.htm
▽エリア・カザンのアカデミー名誉賞受賞 http://www.kcat.zaq.ne.jp/aaaap100/column/column2.htm
▽エリア・カザンの裏切り http://hattori.cocolog-nifty.com/brog/2005/10/post_2de5.html

〈追記〉
マッカーシーらの非米活動委員会に密告をした人物としてウィキペディア(2008/7/17時点)で紹介されているのは以下の通り。

告発・密告者
* ロイ・コーン
* ロナルド・レーガン
* リチャード・ニクソン
* エリア・カザン
* ゲイリー・クーパー
* ウォルト・ディズニー

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