「みんなでネット鹿児島」にありがとう
「みんなでネット鹿児島」というサイトがこのほど閉鎖された。このサイトは、2004年5月に廃刊した「鹿児島新報」のOBたちが2005年に手弁当で開設したもので、新報OBと市民記者が身近なできごとをつづっていた。OBは「NPO鹿児島新報」というグループをつくり、新報でが培った取材・執筆などの技術を社会に還元する出前講座もおこなっていたと聞く。わたしが聞き取り調査をした2006年時点で、NPO法人の申請はなされていなかったが、定款に載せるべき文章はすでに練られていた。新聞社が破綻したあと、じぶんたちが地域にどのような貢献ができるかを真摯に考え続けていた。じぶんたちが地域に必要とされる理由--〈新聞〉の存在理由について模索していた。そのことは関係者インタビューで痛いほど感じた。……URL(http://www.npo-shinpo.com/)を入力しても何も表示されないディスプレーを見つめているうちに涙がこぼれそうになった。
マスメディアやジャーナリズムを調査や研究の対象とする人々には、ある種の傾向が見られると思う。それは、ビジネスとして成功している今太閤を対象にしがちだということ。お金が儲かる理由やアクセスが集まる背景をブンセキしたがる。返す刀で、古いメディアの人々を指さして「分かっていない」「気づいていない」などと大胆に断じたり、たいして新しくもない技術やデータをマーケ屋から見せられて「目からうろこ」などと騒いでみたり・・・・。そんな研究者や論者たちにとって「みんなでネット鹿児島」のような例は膨大な失敗例の一つにすぎず、「対象」にならないのだろう。
わたしはあえて言語化して残したい。彼らが廃刊から1年後に再結集したことを。会合を開いて復刊について議論をしていたことを。たんなる私利私欲やノスタルジーではなく、パブリックな何かに駆動されていたことを。いまさら青臭いことを言うようだが、そんな小さな営みのなかにこそ希望を見いだせると考えるからだ。
関係者の皆さん、ほんとうにお疲れさまでした。そして、ありがとうございました。遠く離れた東京の地から、可能な限り語り伝えます。
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コメント
どんな事情で閉鎖されたんでしょうかね。NPO的な方向性とメディアのあり方が不具合でもおこしたでしょうか。
投稿: schmidt | 2008年7月 7日 (月) 17時05分
>schmidtさん
まだ詳しいお話をうかがっていないので、なんともいえませんがが、NPO的な方向性はメディアの在り方自体に問題はないと思います。おそらく別な理由からだと思います。新たなサイト(メディア)構築が進んでいることを祈っています。
投稿: 畑仲哲雄 | 2008年7月 8日 (火) 11時27分
「みんなでネット鹿児島」の記者スタッフで鹿児島新報OBの一人です。応援ありがとうございます。(「中山事件の闇」を執筆した荒木です)
誤解を解くために弁解しますが、まだ、ぽしゃったわけでも、閉鎖したわけでもありません。スタッフ一同、それぞれ別の仕事を持っていて専任というわけではありませんので。ほかにも理由はありますが、まもなく再開する予定です。NPO法人の申請その他はについては、まだ、そこまで段階が進んでいなかっただけのことで今後のことになります。
投稿: | 2008年8月 1日 (金) 18時24分
荒木さん、ありがとうございます。
確認もせずに「終わった」かのような記事を掲載して申しわけありませんでした。
ウェブサーバーからすべてのファイルが削除されたようだったので、とんだ早合点しました。
「まもなく再開する予定」と知り、とても嬉しく思います。
私にできることがあれば、遠慮なくご連絡ください。
次回、鹿児島へ行くときは、荒木さんにぜひ目にかかりたい願っています。
投稿: 畑仲哲雄 | 2008年8月 1日 (金) 20時31分