中途半端で嫌な人間
学外で人と議論していて、話題がじぶんの研究領域に及ぶと、意識しないうちに専門語を使ってしまうことがたまにある。いや、よくあるらしい。「ワケのわからない言葉を使うな!」と叱ってくれる人もいるが、たいていの場合は嫌な思いをさせているはずだ。なんて嫌な人間なのだろう。社会人大学院生になる前のわたしが、好人物であったとは思えないので、〈嫌な人間〉の度合いは上昇しているに違いない。わたしが大嫌いな老害評論家はラジオ番組で民主党の政治家たちを「大学院の学生みたいなもんで、中途半端!」とこき下ろしていたが、そんな中途半端な大学院生が、学外で得意になって学術語を振りかざすという図は、どこから見てもみっともない。
「詩のボクシング」という競技があるが、大学というところは「知のボクシング」をするところではないかと思う。論文を書く人は、往々にして論敵をコテンパンに打ち負かそうとたくらんでいるものだし、そうした論争はいたるとろで発生している。ときにプロレスの場外乱闘のような罵倒合戦も起こる。詩のボクシングのほうが潔く、楽しいことは言うまでもない。
ボクシングを例にしていえば、プロボクサーが素人と殴り合いをすれば、その技能は凶器となる。だから、ボクサーは素人にからまれても自制する。しかし、学者が素人相手に議論をするとき、当たり前だが、その「知識」は凶器と見なされない。ただ、言説資源をたくさん持っている側は、持てる知識を虚仮おどしに使ったり、煙に巻く道具にしたり、立ち直れないくらい傷つけたり、やりたい放題のはずだ。(だからこそ、御用学者は罪深いのだけどね)
むろん、学者が必ずしも正しいとは限らないし、だいたい象牙の塔に閉じこもってばかりいると、J.スィフトが『ガリバー旅行記』で風刺したラピュタ国の住人のようになってしまう。わたしは学者でもなんでもなく、ただの大学院生だし、しかも社会人学生という、半端じゃないくらい中途半端な存在だから、つとめて謙虚でいることを心がけなければならないと思う。
ただ、こんなことを書くと、「自意識過剰」と嗤われたりすると思うが、院生ライフを振り返って、なんとなくモヤモヤし続けてきたことなので、記しておく。自戒のために。嫌な思いをさせた人たち、ごめんなさい。
それと少し関連するけど、闘技的な民主主義や熟議の民主制はいまの日本に必要だよなあ、と思う半面、ディベートやパフォーマンスの能力が高く、かつ、知識が豊富な人たちの専制を招きそうな気もするのですよ。うーん、わからん。
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コメント
「知のボクシング」で、古代ギリシャの哲学の話を何となく思い出したのですが、
何の語源だったのか?スコラ、アカデミー?忘れたので途中であきらめました。
いつか思い出したならば日記ででも書きますね。
「詩のボクシング」は面白いですよね。
最近はあっているのかな?大分前に見たっきりです。
「言葉の暴力」と書くのと「詩のボクシング」とは明らかに違うけど近しいものです。(笑)
パフォーマンス的な能力は、基本、奥ゆかしく、譲り合い精神の日本人にはなかなか修得しがたく、
言葉も嫌みでなく説得力がありユーモアもありウィットもあり‥という方はなかなか‥。
そもそもものは見方で、「中途半端」が短所なら長所に言い換えると「何事にも器用」だとも言えませんか?ちょっと違いますねぇ‥‥。うーん。わからん。(笑)
投稿: mine | 2008年9月27日 (土) 02時21分
>mineさん
「中途半端」を「何事にも器用」と言い換える案、ありがとうございます。ただ……、どう考えても不器用なんですよ、わたしは(涙)。
こつぶちゃんによろしく!
投稿: 畑仲哲雄 | 2008年9月27日 (土) 13時22分