イデオロギーあれこれ(備忘録)
「観念形態」「意識観念」と訳されているイデオロギー (ideology) は、18世紀末から19世紀初頭にかけて観念学派たちが名付けた名称で、観念学派はイデオロジスト (ideologist) と称されていた。世界大百科によればフランスの哲学者&医者カバニスや哲学者&軍人デステュット・ド・トラシーがイデオロジストのはしりで、彼らはベーコンやロックら当時の学者らが考え出した観念を研究した。M.ウェーバーの「理念型」よりも、もっと大味な体系ともいえる。
当時から現在にかけて、イデオロギーなるものを一義的に規定することはできず、語の用いられ方もさまざまである。たとえば、敵にレッテルを貼る際に用いられたり、集団の内部統制に使われたり、運動の旗印とされたり、という具合。
今日の世界を見わたせば、じつに多様なイデオロギーが私たちを取りかこんでいる。リベラリズム、フェミニズム、アカデミズム、ジャーナリズム、ダーヴィニズム、スターリニズム、ダダイズム、マオイズム…。日本語でも保守主義や平等主義、共同体主義、市場主義、無政府主義、組合主義、進歩主義、父権主義、ロマン主義、客観主義、科学主義…。みんなイデオロギーと言っても差し支えない。かならずしも「イズム」ではなく、「論」や「制」という言葉をまとうこともあるが、まあ、なんでもいいでしょう。
ただ、イデオロギーのなかには「70年代アイドル主義」や「金メダル至上主義」「携帯メール使わない主義」「親指シフト主義」のように、思想体系として未成熟であったり成熟困難なものもあれば、その逆で、熟れすぎてプワーンと異臭を放つものもある。私の頭に入りそうで入らない異臭系イデオロギーを、以下にメモしておく。(随時、追記・修正します)
普遍主義 universalism
個々のものより普遍や全体を重んずる立場。プラトンのイデア論など。普遍主義的基準 universalistic criterion なんてコトバもある。
個体主義 individualism
現実にここに存在する個物を真の実体とし、全体や普遍を第二義的なものとする説。アリストテレスの中世唯名論、ライプニッツのモナド論などの思想が代表的。人間の場合は「個人主義」という。
帰結主義 consequentialism
行為を道徳的に判断する際に、その行為から生じる帰結、つまり結果を考慮に入れる立場。功利主義 (utilitarianism) はその典型。帰結主義は「快楽」「幸福」「選好」の3種類に分けられる。
卓越主義(完成主義、完璧主義) perfectionism
宗教上・道徳上・社会的な完全性は達成可能という考え。現世で人間は完全性に到達できるとする考え。
義務論 deontology
道徳的理論として義務の自律的正当化を行おうとする立場の1つ。義務をそれ独自の、他に還元されえない規範と考える。カント「汝の信条が普遍的法則となる事を、その信条を通して汝が同時に意欲出来る、という信条に従ってのみ行為せよ」=自分が行為したい事が、だれが、いつ、どこで、なぜ、いかに行為しても文句なしと自分が意欲出来る行為ならそれを道徳規則とし、その規則に従う。
カントは、法的義務への外面的一致に過ぎない合法性と、義務の意識と道徳法則への尊敬に発する道徳性とを峻別した。
義務論には2つの立場がある。ひとつは行動義務論=個別的状況での義務行為の決断や義務判断はつねに個別的で規則を不必要とするとみる=と、もうひとつは=規則義務論=規則を不可欠とするの立場が分かれる。
目的論 Teleology
道徳的理論として義務の自律的正当化を行おうとする立場の1つ。義務論と対立する。行為の義務をそれが実現する結果、目的のよさによって決定され、目的への手段であるとみる。結果の内容とそれがだれに向けられるかによって,さらに快楽主義 (hedonism)、利己(他)主義 (egoism/altruism)、功利主義等に分かれる。
もうひとつの目的論 人間の意識的行動を含む世界や自然はみな目的(telos)に規定されているとみる。 事象を目的と手段の連関において説明しようとする考え方。 原因とその結果の連関によって事象を説明する機械論に対立する。
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