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2008年10月28日 (火)

『ブラック・スネーク・モーン』と包摂

Blacksnakemoan最初は自由主義社会の「愚行権」を問う作品なのかと思ってハラハラしながら見たが、中盤以降からは社会的包摂やコミュニティという、いつものテーマであることが見えてきた。舞台はどこにでもありそうな米国の貧しい町(というか村かも)。幼少期の虐待でトラウマを抱えた白人少女と、妻を弟に寝取られた初老の黒人男がで会う。女はそのトラウマのため、村の男たちと手当たり次第に性交渉をもつ。ある日、性交渉の際に激しく殴打され路に放置されていた少女を、自暴自棄になっていた男が家に連れて帰り、傷の手当てするところから物語が始まる。

クレイグ・ブリュワー監督 『ブラック・スネーク・モーン』 (原題:Black Snake Moan ,2006, 米)

Blacksnakemoan_2少女が町中で評判のセックス依存症であることを知った男は、少女を鎖でつないで自由を奪い「矯正」しようとする。善意からではない。逃げた妻を引き留められなかったことへの代償行為にすぎず、たんなる逮捕監禁事件である。発覚すれば、どこからともなく自警団がやってきて「変態野郎」と罵りながら男を虐殺するかもしれない(なんかフォークナー的世界)。そんな状況下にある男が、そのリスキーな状況を乗りきってでも少女を救おうとしたのは、彼が属している教会を中心とした黒人コミュニティと幼なじみの牧師やバーテンダーの友達との人間関係(親密圏?)がしっかりしていて、包摂 (subsumption) されていたため。法による支配が通じない世界においては、こうした解決しか残されていないかもしれない、というのがわたしの理解。これ以上、書くとネタバレになるので止めておく。

Blacksnakemoan1愚行の自由まであるが人々が分断された社会に暮らすか、自由は制限されるけれども人々を包摂するコミュニティで暮らすか。日本で1960~70年代に青春時代を送ったインテリたちにはコミュニティが土俗的でじめじめした恥ずかしいものに映りがちだが、分断されアトム化した人々で成り立つ今日では“敗者”を包みこんでくれる人と人とのつながりがすっかり枯渇しているのかもしれない。この作品では泥臭いブルースが分断化された人々の感情を回復しコミュニティを構築している。

気の毒な少女は、危うい役が得意なクリスティーナ・リッチーが今回も体当たり熱演。パンツ一丁で走り回っていたのが印象的だが、『バッファロー66』のときほどグっとこない。悩める保守の初老男は『スターウォーズ』のエピソードシリーズでライトサーベルを振り回し『パルプフィクション』で罪もない人を何度も撃ち殺していたサミュエル・L・ジャクソンが好演。存在感あります。

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コメント

 よろしければ映画のフォローの仕方のこつを教えてください。雑誌購読しています?

投稿: schmidt | 2008年10月29日 (水) 12時29分

schmidtさん、こんばんは。
 わたしになんかに「こつ」を聞かないでくださいよ(笑)。目についたもの、耳から入った情報に基づいて、気まぐれに観ているだけですから。あと、映画雑誌はまったく読みません。
 近年は同居人の影響で法律系が増えていますが、メディアとデモクラシー研究の足しになるような作品を見るよう心がけています。
 蛇足ですが、エントリーであまり触れませんでしたが『ブラック・スネーク・モーン』は、ブルース音楽が好きな人にはたまらない映画だと思いますよ。ご覧になりましたか?

投稿: 畑仲哲雄 | 2008年10月29日 (水) 21時16分

「レッド・スネーク・カモーン」
っていうことを言いたい、というだけのことでした。しかしながら、エントリーなさった内容に比して、あまりにくだらなくて不謹慎なので、一日控えておりました。(意味のわからない若者の方、ごめんなさい。)

投稿: brary | 2008年10月29日 (水) 21時42分

>メディアとデモクラシー研究の足しになるような作品

 なるほど一つの軸があるわけですね。わたしには・・。ないなあ。ブルース大好きです。見てみたいです。この作品、こちらでは公開されていないんですよ。

投稿: schmidt | 2008年10月29日 (水) 22時49分

>braryさん
 ナイス、つっこみ!(爆)

>schmidtさん
 ぼくはレンタル店でDVDを借りて見ましたよ。おちかくのTSUTAYAにないですか?

投稿: 畑仲哲雄 | 2008年10月30日 (木) 01時30分

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