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2008年11月12日 (水)

『ジャッカス』の再帰的な笑われ力

Jackassおバカ系映画はそれほど観ないほうだが、ひっさしぶりに笑わせてもらった。ケガで流血なんざ当たり前。普段わたしたちが押し隠しているものたちが画面いっぱいに登場するという、お下劣きわまりない超スタントのドキュメンタリー。見方によれば醜悪の極北。しかし、ガキ時分の興奮がわき出てきて、なんだか懐かしいような気にもなる。役者たち自身が笑われることを楽しんでいる。バカなことをして自らを笑い、他者に笑われて、そんなじぶんを再帰的に笑えるヤツらはえらい。

ジェフ・トレメイン監督 『ジャッカス:ナンバー2 限界越えノーカット版』 (原題: jackass number two the movie, 2006, 米)

Sets人間を突き動かすものはいくつもある。たとえば金。じぶんにとって損か得かという計算で行動と決める人たちは多い。人間は利己的でなければ生存が脅かされるわけで、意識せずとも、どこかにそういう計算が紛れ込んでいる。権力欲や支配欲もある。人を屈服させたり意のままに操縦したりしたいという願望を、人は大なり小なり持っているのはないだろうか。権力欲と金銭欲がオーバーラップすることもままある。

しかし、人は欲得抜きの好奇心に突き動かされることもある。たとえば知的好奇心。身を持ち崩すのを厭わずに学問や文学に没頭しながら活き活きしている人を見ると、こちらも楽しくなる。ジャッカスに登場するスタントマンたちは、人がやらないような馬鹿ばかしくも危険なことにチャレンジしているという面白さに没頭しているように思える。下劣なくせに、なんだか爽やかなのだ。

巨大なロケット花火にしがみついて空中に打ち上げられ湖面に落下する。馬糞を食べる。巨大アナコンダと格闘して血まみれになる。半裸のボケ老女に扮してガラの悪そうなチンピラに迫る。自らをエサにして釣り糸を付けてサメだらけの海に飛び込む。浣腸で直腸に入れたビールを肛門から出してごくごく飲む。爆弾(模造)を体に捲いてタクシー運転手に「空港に行け」と命じる。種馬のスペルマを飲む。ボケ老翁に扮して街角で孫役の子に酒やタバコをのませ、注意をした血の気の多い若者にケンカを売る。闘牛の牛をかわしながら4人でシーソー遊びをする。エンジン付き車いすに「車いす男性」を乗せてエンジン全開で湖に発射する・・・・

映画『ボラット』の場合は、ユダヤ系英国人俳優サシャ・バロン・ コーエンが、アメリカ社会に囁かれるユダヤ差別を暴露するという政治性が感じられたが、『ジャッカス』のスタントマンたちは純粋に阿呆なことをしてみずからの限界を試すことだけに命をかけている点が潔い。なによりも、本人たちが一番笑いころげて面白がっている。上から目線の人を見下す笑いではなく、徹底して下から目線。人を笑うのではなく、まずは己を笑い、笑われることに徹していることだ。(ただし、身近にこういう人がいたら、かなり迷惑だろう。こういう人たちにイタズラされたとき、腹から笑って許せるかどうか・・・)

この手のバカ映画に登場する生き生きした役者たちは、小器用にリスクを他者に振り向けながら私利だけに生きる「勝ち組」よりも、よほど人生を楽しんでいるように思えてくるから不思議だ。私見だが、短い人生、自他にどれくらいの善と幸福をもたらしたかによって計られるのではないか。

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コメント

 ウッ、ごめん。気持ち悪い。

投稿: schmidt | 2008年11月13日 (木) 16時35分

>schmidtさん
 はい、たしかに気持ち悪い場面も満載です(笑) でも、とても見終わったあとは、とても爽やかなのです。ぜひお試しください。『ボラット』より毒がないので、物足りないかも知れませんが。。。

投稿: 畑仲哲雄 | 2008年11月13日 (木) 16時45分

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