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2008年12月 8日 (月)

『ファイト・クラブ』から10年

Fightclub3ブラッド・ピットが出演する映画の多くは、彼を愛でるファン向けに作られていると思っていたが、映画『ファイト・クラブ』はカルト作家チャック・パラニュークの原作がよかったのだと思う。いま観ると、約10年ほど前のアメリカ下流に覆っていた鬱屈が想像できる。「これでみんな平等になる」などというセリフが出て、ウォールストリートとおぼしき金融街の巨大高層ビルが爆破され崩壊する場面がある。これって、9・11事件やサブプライムローンをめぐる金融メルトダウンと妙にシンクロする。

デヴィッド・フィンチャー監督 『ファイト・クラブ』 (原題: Fight Club、1999、米)

一般的にこの映画が問いかけたとされるテーマは、当時経済大国だったアメリカで消費に踊らされる庶民の空虚感とは別の地平。殴り合うことで得られる原始的な「生感覚」で補おうとする別なる世界の構築。会社では米つきバッタみたいにヘコヘコしている補助職の男も、秘密クラブにやってきたホワイトカラーに血反吐をはかせるほどひっぱたけるし、勝っても負けても賞賛を浴びる。

ただ、この映画が、マチズモやマスキュリニティ礼賛というわけではなく、金融や法といった権力=敵を発見し、それらと立ち向かうことの正統性(抵抗権)を、生きている実感の回復に求めているのは、ある意味まっとう。不当な権力を打ち倒す権利を有しているはずなのに、ライフスタイルという名の監獄が人々の怒りを沈め、羊の群れと化しているのは事実だろう。(暴動や反乱に正当性があっても暴力性が批難の的になりやすく、暴動を鎮圧する国家の暴力に多くの人は寛容である)

L_85b2f07e4a40391302d00a2dfbcb594_2別な見方をすれば、米国社会における「父の不在」も映し出されている。この映画の冒頭で、主人公が巨大な乳房をもつ睾丸がん患者の中年男に抱きしめられる場面がある。男が男の大きなおっぱいに顔をうずめて、ヒイヒイ泣く場面は去勢された男性と、父と出会えない息子の表象。こんなにもストレートに表していいのだろうか。(ヒロインとの男女関係については、面倒なので省略)

この映画が撮られて10年。この間、この間いくつもの権威が失墜し、欺瞞や不正が露呈した。

映画公開と同じ年(1999年)にはルインスキー氏がクリントン氏とのスキャンダルを暴露した『モニカの真実』を出版。2001年にブッシュに政権が誕生して以降は、9月にWTCビル自爆攻撃とアフガニスタン戦争(米のアフガン報復爆撃)。12月にはエンロンが破綻、02年にワールドコムが破綻。ITバブル崩壊後も、ネオ・リベラリズム的政策により格差が広がり、下流層の若者は2003年3月にはじまったイラク戦争に駆り出されて次々と命を落とし、戦争に行かない人たちもサブプライムローンに代表される消費に煽られ続けた。05年にはイラクに大量破壊兵器が存在しなかったことが確認されたが戦争の正当性は反省されず、テロ対策を口実にした盗聴・検閲が行われるようになり、アメリカが掲げてきた理念や価値が著しく減じた。

アメリカが自信を取り戻すには、正義や公正さといった理念を具現化することではないか、とオバマさんも演説してます。 まあ、この10年を振り返ると、日本もエラうなことは言えませんよね。

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コメント

戦争って‥‥正義と正義のぶつかり合いですよね‥。
肯定も否定もしませんけれど。
10年の間に育てられたものは無知と猜疑心だったのでしょうか‥‥。
なんだか、自分の10年を振り返ってしまいます。coldsweats01

投稿: mine | 2008年12月 8日 (月) 05時20分

>mineさん
 この10年を振り返ると、愚かなことがいくつもありましたね。そういえば、正義と正義のぶつかり合いならまだしも、ただの侵略・殺戮、そして、戦争の脱国家化(民営化)みたいな現象もアメリカに起こりましたね。おっしゃるとおり、無知や猜疑心も連鎖的に広がったかも。
 一部のアメリカ人は、行きすぎた市場至上主義を反省し、立場の弱い人たちを深々と包み込める懐の深いコミュニティの再興を望んでいます。ヨーロッパはすでに社会民主主義的な方向に梶を切ったかにみえます。
 日本はどうでしょう。どんな社会が好ましいのか。漢字が読めない首相をコキ下ろして冷笑するだけでは、なにも生まれませんし。。。

投稿: 畑仲哲雄 | 2008年12月 8日 (月) 09時16分

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受信: 2008年12月 9日 (火) 08時50分

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