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2009年3月24日 (火)

『つたえびと』100人で1冊プロジェクト

Jpg活字系ローカルメディアで働く中堅・若手社員を中心に、学生、研究者、実業家など計100人で1冊の本をつくった。タイトルは『つたえびと-100年後にも残したい「つたえびとが、つたえたいコト」46人のメッセージ』。本を編んだのは、ローカルメディアネットワークという自律的な組織で、仙台や佐賀などに本社がある地方新聞社で働く中堅スタッフが、組織や地域の壁を越えて広げていった。「社会の当事者として、伝えたいことを形に残し、多くの人にメッセージを発信していくことをサポートしたい」。代表者の畠山茂陽さん(河北新報社勤務)らが、1人1万円ずつ持ち寄って2000字で思いを伝えることを呼びかけ自費出版した。

『つたえびと-100年後にも残したい「つたえびとが、つたえたいコト」46人のメッセージ』 (ローカルメディアネットワーク編、2009)

たとえば新聞記者として仕事をしている人が、新聞紙ではなく、個人的な日記やブログでもなく、なぜ700部の本のために2000字の文章を寄せるのか。西栄一さん(神戸新聞社勤務)は「風化しない記憶-小さな胸が痛んだときの処方箋」と題し、阪神大震災で自らも被災しながら、報道の業務や、地域のボランティア活動に没入していた自分の、罪の意識を吐露している。それは当時妊娠していた妻から発せられた「西は私を家に置いたまま外に飛び出して行くだろう。他に頼るべき人がいない神戸で、一人でどうすればいいのか不安でいっぱいだった」という言葉に射抜かれたときの記憶であり、それが彼のその後の人生の糧となっていることをうかがわせる。

メディア関係者でも地方在住者でもない参加者のメッセージとして、渋谷で「公界」というBARを切り盛りする木村光のメッセージがある。木村さんは、地方=ローカルという言説が、非東京・非大阪の場所を指し示すものとして使われることに違和感を抱く。それが、膨大な人と物が往来する東京というひとつの地方性に自らアイデンティティを求め、酒を媒介につながっていく。ちなみに「公界」とは、鎌倉時代の禅宗寺院で用いられた仏教用語で、ニッポンの公共性を考える際のヒントとなる。現代の公界も、たんに酒を飲ませるだけのBARではないのだろう。

おそらく30年前なら、こういう本が編まれることはなかっただろう。「情報」の市場で圧倒的な強者であった産業界の中堅たちが、別なる価値に重きを置いてつながっていく必然性などなかったし、本業にこそ大きな価値であったと考えられていたからだ。人に何かを伝えるという行為--それは市場で金銭と交換されるものとして観察される。けれども、市場で交換が成立する前段階で、参加者の多くは交換不可能な価値があることを知っている。それは、それぞれが属する家族や親戚どの親密圏や共同体(コミュニティ)や団体・組織(アソシエーション)において金銭と交換されるものではなく、無償で共有され、受け継がれる価値だ。この本が、そうした価値共有の媒介となることを心から願う。

この本は残念ながら街の書店やアマゾンなどのオンラインストアでは売っていません。ほしい人は畠山さん <hatake06@gmail.com> にメールで連絡を取ってください。手渡し販売しています。

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コメント

これは読んでみたい本ですが、Amazonで買えないのはマイナスですね…。

投稿: 臼井正己 | 2014年4月25日 (金) 12時32分

臼井正己さん
アマゾンでは売っていませんが、下記サイトに問い合わせれば買えると思います。
http://www.five-bridge.jp/newspaper/
おっしゃるとおり、Amazonで簡単に手に入らないのは不便ですが、手作りならではの良さがありますよ。

投稿: 畑仲哲雄 | 2014年4月25日 (金) 12時42分

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