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2009年3月 7日 (土)

オンデマンド本を買う

Pestoffほしい本があった。ペストフという北欧の学者が1998年に書いたBeyond the Market and Stateの訳書である。すでに絶版になっていて大学の図書館にはあるのだが、やはり手元に置いておきたい。版元の日本経済評論社にも在庫がなく、アマゾンのused(中古)では、定額給付金でも足りない1万3000円の高値が付いていた。それが元値の3990円で買えた。しかも新品!オンデマンド出版のなせるわざなのだ。

ON DEMAND「万能書店」 http://www.d-pub.co.jp/index.html
ペストフ、ビクター (2000=2007) 『福祉社会と市民民主主義 : 協同組合と社会的企業の役割』 藤田暁男[ほか]訳、日本経済評論社
Pestoff, Victor A. (1998) Beyond the Market & State: Social Enterprise & Civil Democracy in a Welfare Society, Ashgate Pub Ltd.

私はその方面にそれほど明るくないのだが、オンデマンド出版はブログの書籍化サービスや自費出版などで拡大しているビジネスのようだ。一生懸命ブログを書いて、コメントやトラックバックの機能を使って相互交流をしたものの、ブログの多くはIT企業のコンピューターに保存されている電子データにすぎない。「手元にない」という身体感覚がつきまとう。その点、紙の本という有体物は、検索できないうえ破損してゆく運命にあるが、五感で感じることができる。オンデマンド出版を使おうという人が増える理由はよくわかる。

このオンデマンド出版は、良書の復刊にも利用できるようで、今回、入手した本は、大規模な書籍製作過程ではなく、小規模な設備で製本されたものだと思われる。活字印刷だけなら、家庭用のプリンターでも高品質なものができる。これに製本機を組み合わせれば、データさえあれば復刊が可能になる。奥付には初版初刷が2000年であることが記されている。ただ、この本には奥付がもう1ページあり、オンデマンド版の奥付として2007年5月25日の日付が載っていた。つまり、この日付からオンデマンド版の刷りになっていて、1冊ずつ増し刷りがかかっていると考えられる(ちがうかな?)。

規模を重視する市場の論理からすれば、ペストフ本は「使命を終えた商品」または「成功しなかった商品」かもしれない。それだけで無価値おn烙印を押すのはあまりに愚かだ。その道の研究者にとっては高い価値があり、書かれてある内容は今日の社会にも有益で有用である。ただ、なんでもかんでもオンデマンド出版できるとは限らない。出版社など権利主体の了解が得られ、電子データがそろっていて、かつ、一定程度のリクエストがなければ復刊されることはない。

いつのころからか、本や雑誌を買わない研究者や書き手が増えている。だが、書き手・編み手・読み手・作り手は、みな持ちつ持たれつの出版共同体の成員ではないか。コピーというフリーライドばかりしないで、積極的に支え合うことが共同体を善くすることにつながることは、だれもが知っていることだ。こういう小さなオンデマンド本が成立することは、共同体にとって希望に思える。・・・・というようなことをペストフ先生も思っておられるはずだ。これはビジネスや経済やテクノロジーの話はなく、文化や社会や智慧の話である。

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コメント

この会社は、とても近所にある取次会社と印刷会社が折半で出資して、10年前につくったのです。
(お買い上げありがとうございます。)
そもそも、絶版本の小部数復活を目的としたのでした。版がなくても、スキャンデータで本が作れます。

投稿: brary | 2009年3月 9日 (月) 19時45分

>braryさん
 なるほど絶版本の復刊目的、ですか。こういう会社って貴重ですね。

投稿: 畑仲哲雄 | 2009年3月 9日 (月) 20時34分

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