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2009年3月28日 (土)

『いのちの食べかた』と合理化

Ourdailybread話題のドキュメンタリー『いのちの食べかた』をようやく観た。ナレーションなし。セリフなし。効果音なし。音楽なし。食材が淡々と生産される工程を記録している。タンパク質系では牛肉、豚肉、鶏肉、乳牛、鶏卵、サケ。植物系ではアーモンド、キャベツ、キュウリ、トマト、パプリカ、ヒマワリ、ホワイトアスパラガス、リンゴ。ほかに岩塩の採取風景や豚、牛の種付けと牛の帝王切開シーンも。岩塩や植物は別にして、生き物を工業製品のパーツように処理する場面は、やはり衝撃を覚えずにはいられない。

ニコラウス・ゲイハルター監督 『いのちの食べかた』 (原題:Unser täglich Brot, 英題:Our Daily Bread, 2006, ドイツ,オーストリア)
公式サイト http://www.espace-sarou.co.jp/inochi/
「いのちの食べかた」NEWS http://tabekata.jugem.jp/

子供時分によく見ていた『すばらしい地球旅行』(日テレ)には、狩猟採集生活をする人たちがたびたび登場した。そうした番組で伝えられた食材や食物の生産は、人々の生活に組み込まれ、命に対する畏敬の念や実りへの感謝といった文化的な要素(ある種のバイアスを含む)とともにパッケージ化されていた。だが、大きな都市でしか暮らしたことのないわたしは、畏敬や感謝を省略し、世界から集められた良質な食品を安く買うことにしか関心を持たなくなっている。

Film_ourdailybreadDVDに収録されていたインタビューのなかで、ゲイハルター監督はこの映画を撮るきっかけが、“食品が安いのはなぜか”という疑問だったと述べている。カメラが捉えた事実は、『すばらしい地球旅行』とは対極の、生産過程がすさまじく効率化されていた世界だった。ヴェーバー先生の言葉でまとめれば、近代の必然としての「合理化」の極地である。

たとえば、朝から晩まで一日中、衛生管理の行き届いた工場で牛の内臓を手で選り分ける流れ作業をしている作業員がいる。別の場面では、吊された豚の足を次々とハサミで切り落とす流れ作業の作業員が映る。除菌された作業着や手袋を身につけ、みな黙々と作業をしている。多くの人がヘッドホンを付けている。単純作業の単調さを紛らわせるための音楽でも聴いているのだろうか。

食事、排泄、生殖、狩猟採集、睡眠、祭祀…… 人々はもともと円環的な時間と空間のなかで暮らしてきたが、合理化が進んだ今日、わたしたちは断片的で狭い空間のなかを生きている。とりわけ都市生活者には食べものの生産現場は縁遠くなっている。スーパーマーケットでしか買い物をしたことがない子供が、「なぜ水族館には切り身の魚が泳いでいないの?」と問うことを笑えない。この映画は、たべものの生産の場が畏敬や感謝が見出せないほど合理化され、いきものが機械的に扱われている事実を突きつける。そして、合理化を促してきたのは1円でも安いものを求めてきた消費者であることをも同時に想起させてくれる。安さに理由はあるのだ。

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コメント

こんばんわです。茶栗鼠といいます。
合理化、っていうのは怖いですがやはり便利なので、それになってしまいますねぇ。
ヘッドフォンも気になりました。
ドイツの方々はどう思ってるのか、気になりました。
カメラが微動だにしなかったので、すこし単調になって、残虐性を押し出していましたが、
しかたないですねぇ^^/

投稿: 茶栗鼠 | 2009年4月 2日 (木) 20時57分

>茶栗鼠さん
 こんばんは。この映画は本当にいろんなことを考えさせてくれますね。

投稿: 畑仲哲雄 | 2009年4月 2日 (木) 23時17分

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