職質とYouTube
じぶんよりも権力と資源が少ない相手と向き合ったとき、自制できる人は、それほど多くないのかもしれない。相手が無抵抗であったり、抵抗できないような立場にあったりするとき、ひとは残酷になる。それはわたしたちの本性かもしれない。
警察だけを責めるつもりはない。似た構造はいくらでもある。医者と患者の関係、経営者と労働者の関係、上司と部下の関係、教員と生徒の関係、腕力の強い人と弱い人の関係、金持ちと貧乏人の関係、親会社と子会社の関係、扶養者と被扶養者の関係、社員と派遣の関係、取材者と被取材者の関係……みな資源と権力が非対称だ。そんな関係下で、すぐに一線を越え、相手を抑圧してしまう人は、弱く醜い。
ゆえに宗教は戒律を定めてきた。欧米のリベラリストは正義justiceや公正fairnessの概念を掲げ、公民的共和主義者civic republicanや共同体主義者communitarianは徳性Virtueを身につけよと主張する。日本の素朴な道徳感情を探せば「礼節」「恥」などの少々古めかしい言葉が思い浮かぶ。
街を歩くと「誰かが見ているぞ」というポスターと出合う。日本社会は監視カメラだらけの社会になった。そして、だれもが動画の撮れるケータイをもつ。電話の音声も容易に記録できる。だれだって監視されたくないし、記録されたくもない。まして「ネットで晒される」なんていやだ。ならば、恥じない行動に徹して生きるしかない。息苦しい。でも、それがアトム化した時代を生きるわたしたちにとって、もっとも身近な救命具といえる。
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