統制と自由/不平等と平等(備忘録)
大澤真幸さんが4月1日付『東京新聞』夕刊の論壇時評で、柄谷行人さんの論究する交換様式を紹介していた。大澤さんは「柄谷行人は、社会の支配的な『交換様式』に着目することで、切実で根本的な問いに答えを与えようと努力してきた」と述べ、柄谷さんの考えを図に示した。この図を見て、ハっとした。似たものをどこかで見たことがある! そう、ボッビオによる右翼/左翼の図とほぼ同じなのだ。ただ、悲しいかな、わたしはボッビオをきちんと読んだことがないし、それどころか彼がヨーロッパ政治の見取り図として示したスペクトラムの図も見ていない。うーん、くやしい。
大澤真幸「第四の交換様式/『抑圧された相乗性』の回帰」東京新聞、論壇時評、2009年4月1日夕刊7面
見田宗介 (1971) 『人間解放の理論のために』 筑摩書房
ノルベルト・ボッビオはイタリアの政治学者でヨーロッパの政治思想を2本の軸に分けて整序した。軸のひとつは[統制←→自由〕。統制をつきつめれば全体主義となり、自由を強く求めれば無政府主義=アナキズム志向になる。もうひとつの軸は[不平等←→平等〕。不平等というとピンとこないが、ようするに競争の結果として差異や格差が生じることを認めるもの。逆に平等というのは機会の平等はもちろん、結果の平等も強いるという立場である。・・・・ということで大丈夫かな。
大澤さんが図示して整序した柄谷さんの交換様式も、基本的に[統制←→自由〕と[不平等←→平等〕の2つの軸を踏襲している。ただし、変数が違うので注意しないと読み違えてしまう。柄谷さんの図は社会関係を示しており、歴史的にA互酬(贈与と返礼)、B再分配(略取と再分配)、C商品交換(貨幣と商品)に切り分けており、Dを空欄のままにしている。このDこそ、柄谷さんが「望ましい」とする自由で平等な交換様式が支配する社会だというのだ。
柄谷行人「権力論」(『季刊at』14号)で、フロイトを引きながら柄谷思想のキモについて述べつつ、そこへ真木悠介さんの「コミューン」と「最適社会」に関する古くて新しい議論を援用しつつ、大規模な社会においてDがいかにして可能かについて検討しているのだけど、わたしごときの浅学がごちゃごちゃ書くと、誤読と誤解の相乗化が生まれ世の迷惑になるので省略する。ま、あくまでも個人的な備忘録ということで。
最後の図は、わたしがボッビオの図から勝手にあれこれ考えて作ってみました。間違ぅとるぞ、というコメントがいただけるとうれしいです。
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