ヱヴァ破、ようやく観た
その昔、トレンド誌の編集者だったころ、編集長から叱られたことがある。お叱りの言葉は「えびバーガーはちゃんと食べておけ」である。「えびバーガー」はたんなる変数で、彼が言わんとしたのは、話題になっている商品は、積極的に体験しておけということ。当時、客観報道主義者だったわたしは、えびバーガーなるものに人気が集まっていたら、作った人、食べた人、仕掛けた人の意見を聞き、それを伝えることがもっとも誠実だと信じていた。トレンド誌といえども記者は無色透明で、じぶんの意見を差しはさむべきではない、と。編集長は、取材の前に、ひとりの消費者として食べておくべきと諭してくれたわけだ。これって、わたしにとって方法論的転回だったのですよ、という苦しい言いわけめいた前置きをして、あれこれ語る前に、まず「ヱヴァ破」を観てきました。
告白すると、社会現象としてのエヴァンゲリオンを知ったのは、『科学朝日』に掲載された記事で、少年アニメが一部の「境界例」の人たちを引きつけて止まないという内容だった。その次は、『サンデー毎日』に載ったジサン記者による「大人にはわからなかったよ」的なリポートを読んだ。そんなこんながあって、エヴァ現象にたいへん興味をそそられた。
結果として、エヴァ作品はほとんど観た。いつだったか、上方落語の大御所・桂文枝師匠の褒章会見を取材したのだが、そのとき、文枝師匠が弟子の三枝師匠にエヴァンゲリオンについて質問しているのをたまたま立ち聞きした。そのとき、「えびバーガー」の教訓を思い出した。文枝師匠も、三枝師匠も、きっと、えびバーガーを食べる人なのだ。すばらしい。
エヴァについて、ポストモダン系論者による「セカイ系」の話や、宗教的な謎解きについては、ほんの入り口程度だがいちおうフォローした。なので、今回の『破』も、「行きがかり上、最後までつきあうか」という気分で観たわけだ。
ネタバレにならない程度の感想を記しておくと、新しい『序』『破』シリーズは、『科学朝日』で言及されていたような境界例の人々をさほど魅了しない気がした。とらえどころのないセカイに在るジブンという問題や、ストーリーがどのように破たんするのかという危なっかしさが大幅に縮減され、わりと骨太な教養小説みたいなものにまとまりそうな予感がする(「Q」を観ないとわからないけど)。もう一点、どうでもいいことだが、某少女キャラによる「えこひいき!」や「ななひかり!」などの罵倒言葉の乱発は、どこか格差社会を映している気がした。
ところで、同居人は「エヴァ」および「ヱヴァ」の鑑賞を、すべてわたしのせいにしているようだが、そんなに恥ずかしいのことなのかな?
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コメント
ガンダムもエヴァもおばちゃんになってから見ましたよ。
ファーストガンダム初回放映は確か高校生の頃でしたね。
すごく見たかったけれど、うちでは映らないUHF局だったので見れなかった。
エヴァはネット上にupされたのを探しつつ全話みましたが・・・
男の子やねぇ・・・シンジくん。と言うのが第一の感想でした。^^;
内容について小難しい事を考える前におばちゃんの私から見て、
自分がまださだまらない息子世代の男の子って印象が強かった。
アスカの横暴さに比べてシンジくんのか弱い事・・・・。
監督さんの男子感が強烈すぎて少し気持ちわるいくらいでした。
新しい映画の方も見てみなくては!
投稿: かのう | 2009年7月19日 (日) 00時25分
些末なことですが、補足情報。『科学朝日』ではなく、『サイアス』に境界例の記事は掲載されましたです。ちなみに1997年5月2日号でしたー。
「男子感」、なるほどです。>かのうさん
最初のテレビアニメを思い出し、加えてここ数年で知り合った若い子らを思い出すと、「ああ」となんとなく感じます。
投稿: クニエ | 2009年7月19日 (日) 07時25分
>かのうさん
さすが、ガンダムまで見てるんですね! わたしはガンダムに集中できなかったです。借りてきたDVDをみながら居眠りしてしまった(苦)。さきに絵の完成度の高いエヴァを見たら、ガンダムが貧相にみえてしまって、、、、
「新劇場版:破」のシンジは、テレビシリーズと比べると微妙に違っています。どうぞお楽しみに。
>クニエさま
そーか、もう『サイアス』になってましたか。にしても、いい記事でしたね。
投稿: 畑仲哲雄 | 2009年7月19日 (日) 10時47分