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2009年8月21日 (金)

日本版FCCと市民メディア

民主党の政策集「INDEX2009」のなかに「通信・放送委員会 ( 日本版FCC ) の設置」がある。FCCは米連邦通信委員会 ( Federal Communications Commission ) のことで、かつての日本にも似た第三者組織(電波監理委員会)がGHQ/SCAPの指導によって設立された。しかし、1952年の郵政省設置法改正で廃止され、いろいろあって放送を国家が管理するという骨抜きが行われた。国家と放送ジャーナリズムとの間に緊張関係を保てるようになれば、たしかに波及効果は大きいだろう。

増田覚 「民主党政権公約に「ネット選挙解禁」「日本版FCC設置」など」、INTERNET Watch, 2009/7/28
神保哲生 「大手メディアが決して報じない、『メディア改革』という重要政策の中身」、News Spiral, 2009年8月16日
民主党政策集「INDEX2009」 http://www.dpj.or.jp/news/files/INDEX2009.pdf

神保さんが採り上げている諸問題はマスメディア自身がステークホルダーとなっているものばかり。経営問題に直結するテーマなので、「客観報道」をすることが期待されているリポーターの手に余る。ここはやはり大株主やオーナーと丁々発止渡り合える主筆クラスのジャーナリストが、利害関係者であることを明記したうえで論じる必要があるだろう。ただ、日本では経営者と緊張関係を保つジャーナリストの職能集団がなく、編集トップは経営者に限りなく近くなるのが実情で、多くを期待できない。

市民メディア関係者は、マスメディアの前線にいるリポーターを罵ったり嗤ったりして溜飲を下げるよりも、一歩踏み出してアドボカティブな活動をしてはどうか。というのも、既存のマスメディア、とりわけ新聞社は「白虹事件」以降、発禁を免れるため屈辱的な「不偏不党」を強いられた歴史をもつ。市民メディアまでが、「不偏不党」「客観主義」「公正中立」のような、権力に有利に働きがちな“規範”に縛られる必要などさらさらない。民主的政治過程に寄与するための主義主張をアドボカティヴを展開してもよいはずだ。

いまのわたしには日本版FCCのすべてを論じるだけの知識と見識がないが、一点だけ言いたいのは、これを機に多様な言論や思想の受け皿となるべき非営利放送が増えるような議論が起こればいいということだ。アメリカでPBSやNPRのような (上からの公共ではなく) 市民社会に由来するパブリックな放送事業が可能なのは、非商業放送局を支援する「公共放送機構」 ( CPB / Corporation for Public Broadcasting )をはじめとする非営利団体が存在するからだ。米FCCにも大手放送メディア出身者が少なくなく、ここ数年で大幅な規制緩和が行われている。日本版FCCができるにしても、手放しで喜ぶわけにはいかないことはいうまでもない。

ところで、日本版FCCとともに、「INDEX2009」に明記されていた「クロスメディア所有」は、一般には「クロスオーナーシップ問題」と呼ばれ、こちらも重要な課題ではあるが、「是非も含めたマスメディア集中排除原則のあり方を検討します」という文面を見る限り、それほどの踏み込みがなさそうにも見える。マスメディアからローカルメディア、パーソナルメディアまで、メディアは多様であるほうがデモクラシーにとってよい影響をもたらすことが期待される。市民メディアにとって大切なことは、「民主vs.自民 どちらが勝つか!?」というフレームとは関係なく、市民社会にとって重要なアジェンダを設定し、じぶんも権利関係主体の一角を占めていることとを明示したうえで、言論活動をするほうが良いのではないか。

……とまあ、じぶんの非力さを棚に上げて、市民メディアに対して好き勝手な注文ばかり書きましたが、神保さんのメディア関連記事は、大学院生にも教えられることも多く、その活動は見習うべき点が多いと思います。

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コメント

懐かしいなぁ・・・・。
神保さん。

投稿: ママサン | 2009年8月22日 (土) 15時20分

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