『書棚と平台-出版流通というメディア』は必読
大学院の社会人院生の同輩が、出版流通を「メディア」として史的に考察する修論を一部加筆して単行本にした。すでに【海難記】の仲俣暁生さんがブログで「胸のすくような一冊」「こんな本を待っていたのだ」と絶賛しているので、素人のわたしに何も付け加えることはない。ただ、一点だけ膝を打つ思いだったのは、序章冒頭の「出版危機言説をめぐって」の部分。わたしが『新聞再生』で示した視座と重なるところが多く嬉しくなった。
出版流通の仕組みは、それほど広く知られているとは思えない。そもそも「取次」って何よ、という人のほうが多いだろう。「取次」というのは出版社と書店を結ぶ問屋と卸みたいなものだということを知っていても、出版社にとって実質的に金融の機能まではたしていることを知っている人はきわめて少ないのではないか。
さてさて、本書の面白さは、これまで単線的に(というか当たり前のように)、「著者→出版社→取次→書店」という物流の仕組みとして語られることが多かった出版流通を、メディアとしてとらえ直したことだ。本屋さんの書棚や平台って、たしかに「メディア」だ。取次と書店による競作といえるかも知れない。書店は万人に開かれたパブリックな空間のようでもある。流通の史的発展をつぶさに検証していく本書を読み進めていくうちに、これまで見慣れていた本屋さんの姿が違って見えてくるから不思議だ。
「本が消えてゆく」とか「出版崩壊」とかエゲツナイ題名の本がめにつく昨今、それらとは違った角度から出版を捉えなおそうとする本書は、出版関係者の人のみならずマスメディアの研究を志す大学院生にとって必読だと思う。
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