『チェ 28歳の革命』『39歳別れの手紙』と殉教


エルネスト・チェ・ゲバラ(Ernesto Rafael "Che" Guevara de la Serna)ほどTシャツのデザインに使われてきた人物はいないだろう。旧西側の国でも人気がある。かくいうわたしも、模索舎で衝動買いしたことがあった。ただし、ゲバラTシャツを着ているだれもが、彼の思想と行動に打たれたわけではない。名前さえ言えない人もいるだろう。では、なぜゲバラなのか。最も大きな理由は、かっこいいから、だろう。なので、映画でゲバラを演じる役者さんがメイクをしてゲバラに扮したとしても、本人を超えることはできない。最近の作で、ベニチオ・デル・トロも好演していたが、同居人に言わせると、ゲバラよりも古谷一行に見えたそうだ。(左側がゲバラ本人のpublic domain写真、右側が役者のベニチオ・デル・トロ)
むかし「カストロ帽」というのが流行したことがある。カーキ色で上部が平らで、太鼓にツバを付けたような、独特な形をした帽子で、キューバのフィデル・カストロ将軍(当時)がかぶっていた軍帽を模したものだ。そんなカストロ帽が浪速の悪ガキどもに流行った背景には、大阪万博のキューバ館の存在が大きい。うろ覚えだが、わたしも大阪万博のキューバ館を訪れ、展示されていた写真パネルをながめた。カストロとゲバラ、2人のヒーロー。ガキにとってあこがれは、女の子にモテそうなチョイワル風のゲバラなどより、どこか武骨で優しげなカストロに軍配が上がった。それは、みうらじゅんさんがアランドロン派ではなくブロンソン派であり、町山智弘さんがスティーブ・マックイーン派ではなくポール・ニューマン派であったのと同じ理由だと思う。
そんな個人的な思い出はさておき、ゲバラ2作は、ソダーバーグ自身がゲバラに捧げた映画のように思えた。デヴィッド・リーン監督『アラビアのロレンス』のように、世界を動かした一人の人間の視界から見える世界を描いているのだが、刻一刻と悲劇の結末、すなわち死に向かって突き進む。しかも世界史に刻まれた死に。
もとは平凡だった青年に、波瀾万丈の時が訪れ、やがて夢やぶれて死んでいく。それって浪曲や浄瑠璃と同じじゃないだろうか。『39 歳別れの手紙』の終盤のゲリラ行軍は、人形浄瑠璃の「道行(みちゆき)」と呼ばれる場面そのものに思える。医者であもるゲバラは、戦闘の指揮を執るとともに、傷ついた仲間を献身的に治療する。飢え、疲労、士気の低下。やがて身柄を拘束され、裁判を受けることもなく殺される。観る者はだれもがそのことを知っているのに、なんども追体験したくなる。それは、ゲバラと一体化し、彼の死をわがこととして引き受けんとするためだろう。冷戦構造下におけるキューバ革命のインパクトや、社会主義というイデオロギーは、それほど説明されない。それゆえに人間ゲバラがむしろ「殉教者」に見えてくる。
ラジオのネット配信で、若手論客のだれかが、チェ・ゲバラをウサマ・ビンラディンのようだと話していた。たしかに、ゲバラは貧しい国々(主にスペイン語圏)を渡り歩いて米国のヘゲモニーと闘った。ビンラディンはウンマの海を渡り歩きながら対米闘争を展開しているようにみえる。ただ、決定的に違うのは、ビンラディン家がもともと米国の石油資本と密接な関係があり(華氏911参照)、タリバンも含めて米国の中東支配の落とし子ともいえる存在であるのに対し、ゲバラにはなんのしがらみもなかったことだ。彼がもともとどこにでもいる純朴なヘナチョコ青年だったことは、ウォルター・サレス監督の『モーターサイクル・ダイアリーズ』(2004) によく描かれている。わたしは殉教者などではなく、コモンマンとしてのゲバラにより魅力を感じる。
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コメント
ゲバラのTシャツ着ていけば割り引きするというので、長男から薄汚れたTシャツを借りて映画館に行きました。お金の問題ではなくて、そうすれば、何かに近づけるような気がして。「純朴なヘナチョコ青年」を描いた「モーターサイクル・ダイアリーズ」はいい作品でした。「チェ 28歳の革命」はうーん、だったけど。
投稿: schmidt | 2009年9月 8日 (火) 15時38分
確かに・・・・。
「モーターサイクル・ダイアリーズ」で描かれたゲバラ像は、なんとも若々しく、みずみずしく、無鉄砲であり、無定見であり、
だからこそ、
後に、彼が「何」と戦ってゆくことになるのかを、見事に暗示していた気がします。
投稿: ママサン | 2009年9月 8日 (火) 19時56分
「モーターサイクル・ダイアリーズ」、風景もよかったです。気候帯はさまざまでも、南米という一つづきの地域の存在感が重く示され、そのうえにゲバラが殉じることになる思想や行動があるという重層性がきっちり示されていました。こちらの映画は、どうなのでしょうね。家族と見ようとなど考えず、さっさと一人で見てしまえばよかったのですが、まごまごしているうちに見過ごしてしまいました。
投稿: Sakino | 2009年9月 9日 (水) 00時33分
>ALL
おお、みなさん『モーターサイクル・ダイヤリーズ』を高く評価されていますね(笑)私も大好きな作品です。
ただ、『チェ』2作も叙事詩のようで貴重な作品に思います。ソダーバーグがゲバラに抱く敬慕の気持ちのようなものも伝わってきます。最後のシーンはあまりにもせつなくて。。。
投稿: 畑仲哲雄 | 2009年9月10日 (木) 00時47分