Cohenのアドボカシーの定義と種類 (備忘録)
advocacy に相当するこなれた日本語がなかなか見つからない。代表的なNPOの公式サイトでも「政策提言」などと説明されていることが多い。だが、「政策提言」だけでは、選挙公約のようで誤解を生む。最も古くからアドボカシー活動をしているとされる英オックスファム・アドボカシー研究所の Advocacy for Social Justice : A Global Action and Reflection Guide という本から、その定義と種類を整理しておきたい。
Cohen D, De la Vega R, Waston, G (2001) Advocacy for social justice: A global action and reflection guide, Oxfam Advocacy Institute, Kumarian Press, Bloomfield, Connecticut
Oxfam International http://www.oxfam.org/
田中弥生 (2008=2009) 『NPO新時代:市民性創造のために』 明石書店
著者のDavid Cohenは、「アドボカシーの価値中立的な一つの定義として(one definition of value-neutral Advocacy:)」以下のように記述する。
Advocacy is the pursuit of influencing outcomes - including public-policy and resource-allocation decisions within political, economic, and social systems and institutions - that directly affect people’s lives. (Cohen 2001: 7)
これを、こなれた日本語に訳するのは難しいので、田中弥生先生の訳を以下に引用する。
アドボカシーとは、アウトカム目標の達成に影響する活動である。アウトカム目標とは、政治・経済・社会システムと機関における富の分配に関わる方針と政策など、人々の生活に直接影響するシステムや政策の変革をもふくむような目標のことをさす。(田中 2008=2009: 163)
Cohenは、アドボカシーの種類として5つを挙げ(別表)、そのなかで最も重要なものが「社会正義アドボカシー (Social Justice Advocacy)」ではないかと述べている。Cohenも記しているが、意図するところは、米公民権運動の理論家バヤード・ラスティンの言葉 "From Protest To Politics" というスローガンに集約されそうだ。
Cohenによる分類がアドボカシーのすべてを網羅しているわけではなく、Legislative advocacy (Loue, Lloyd and O’Shea 2003)、Media Advocacy (Asbridge 2004) なども提示されている。
ちなみに、このアドボカシーという言葉は、主流ジャーナリズムとはきわめて相性が悪い。Advocacy Journalismは、「特定の思想を掲げる」ものとして「未熟な段階にある」と見下される (林 2002: 384)。ニュース報道において「客観主義」「公正中立」「不偏不党」などの理念と相容れないからだ。ただし、論説記事やコラムの類はその限りではなく、キャンペーン報道などは一種のアドボカシーといえる。NGO/NPOをめぐる理論とマスメディア・ジャーナリズム理論との架橋は不可能ではないはずである。
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