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2009年9月22日 (火)

理論と実践、リクツとゲンバ

現場で頑張っている人を激怒させるのは、実情を理解しない正論だろう。「理論的に○○するのが正しい」「××に陥っているのは△△のため」などなど。頭ごなしに論評されると「能書きはいらない。1週間でいいから、ここで一緒に汗を流してからモノを言え」と言いたくなる。もっともな怒りだ。だけど、ゲンバに必要なのは理論や理念――呼び方が気にくわないなら、リクツと呼ぼう。どういうゲンバにどんなリクツが必要か。わたしが思うに、バカにされ、貶められ、踏み付けられ、蹴散らされ、無視される、そんなゲンバで実践している人にこそ、彼ら彼女らの存在理由や正統性、意義を与えてくれるようなリクツが必要なのではあるまいか。

あえて抽象的に綴ってみる。たとえば、それまで圧倒的な「勝ち組」だった人たちが、ふと気が付くと「負け組」に転落しそうになっているとする。そういう人たちは、みずからの存在理由や正統性を考える必要がなかった人たちである。彼ら彼女らが欲しいのは、まわりくどい「そもそも論」ではなく、ふたたび「勝ち組」にのし上がるための方法だ。既得権益の上であぐらをかいてきた人にとって、理論や理念といったものはフィクションにすぎず、「力こそすべて」「儲りさえすれば」という思考が骨の髄まで染みているからだ。

他方、「勝ち組」から差別され、存在を危うくされている「負け組」や、厚い壁に阻まれて「新参者」にすらなれない人にとって、頼るべきもの--つまり、自分たちの実践に指針を授けてくれるもの--は理論(あるいは理念)である。じぶんたちが不当に扱われていることに異議を申し立て、じぶんたちの実践がいかに価値あるモノであるかを理路整然と主張するには、理論は不可欠である。それは、それはお手軽な危機回避のノウハウなどではなく、多くの人を説得しうる、普遍的で根源的な思考の筋道にほかならない。

そうした理論は、一見すると「勝ち組」の一部の人には無用の長物どころか、危険思想に映るかもしれない。しかし、ある角度からみると「勝ち組」に見える人たちも、じつは別な角度からみれば、さらなる強者の存在に怯えていたりする。そんなとき、彼ら彼女らも、保身のための理論や理念を掲げる。だが、じぶんが「勝ち組」の立場にいるとき、「そんなものでメシが食えるか!」「えらそうに評論家ヅラするな!!」などと理論を罵る。「負け組」に転じようとしている「勝ち組」はダブルスタンダードに陥りやすく、ひどくみっともない。

こんなことを書いたのは、学者から現場に転じた法律家が、「現場には理論が必要」と話していたことを同居人から聞かされたためだ。その人は、「最下層」とされる人たち権利のため闘っている。理論と実践、理屈と現場。双方を架橋するお手本のような人である。思うに、わが先輩が敬愛する賀川豊彦も、そういう人物だったのだろう。

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コメント

>「現場には理論が必要」

 はい、その通りだと思います。議論の前段をすっとばしてしまうようで恐縮なのですが、自分が属する現場の仕事の仕方自体、その点では大変に甘いと感じています。「理論」というと、感情的な反発を招くかもしれません。少なくとも自分の「現場」を相対化し、評価しつつ進むぐらいの努力は必要です。相対化と評価は限りなく理屈に近くなるのは当然のことです。それができないか怠ってきた「現場」が廃れつつあるだけであり、特に不思議な事態ではありません。

 また、アカデミズムに属する人々の多くは、現場を知らないという点で「現場」からうとまれたり、迷惑がられたりする状態や構図に、ひょっとしたら甘んじているのではないかとも感じています。そういう立場にむしろ「誇り」を持つ人もいるでしょう。そういう人たちの「理屈」は、どうしたって借り物にしか見えませんし、目標設定が明らかに「現場」とは異なります。それはやむを得ないんでしょう。

 わたしたちのように「現場」を動かす立場から言えば、アカデミズムにも向かうアンテナをより高く上げ、現場との共同作業に参加してもらえそうな人を探す以外にありません。数は圧倒的に少ないかもしれませんが、そういう人々に一人でも多くお会いしたいと思っています。向こうからも、こちらを探して見つけてもらえるよに、せいぜい頑張る以外にありません。

投稿: schmidt | 2009年9月23日 (水) 00時07分

>schmidtさま
 なんだかわけの分からないエントリーだったのに、真摯なコメントをありがとうございます。一人でも多くお会いしたいですね。まったく同感です。

投稿: 畑仲哲雄 | 2009年9月24日 (木) 10時07分

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