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2009年10月15日 (木)

恐怖する「勝ち組」

素朴な疑問をひとつ。失業やホームレスの問題は「雇ってもらえない人」の問題ではない。派遣切りをしたり、雇い止めをしたり、内定取り消しをする「冷酷企業」だけの問題でもないような気がする(責められる会社もあるだろう)。むしろ、社会全体の問題じゃないか。すこし無理めの例えだが、わたしたちは仕事と金という資源の「椅子取りゲーム」をしているようなもので、ひとりで椅子を5つも6つも独占させないような仕組みを導入する必要がある。一度や二度、椅子に座れなくても、「明日があるさ」といえる世の中が好ましい。仕事や金は、椅子とは違って分割できるが、なぜ分割しないかというと、ひとたび「負け組」に陥ってしまうと「明日がない」からで、「勝ち組」はイケているようで、じつは転落してしまうことに過剰に恐怖を感じているのではないだろうか。

そうした「恐怖」を取り除くには、社会保障への信頼を高める--つまり、旧来の社会保険と公的扶助を手厚くするという弱者救済のミクロ策に力を入れる--というが思い浮かぶが、それだけでは不十分だ。むしろ、「勝ち組」たちに「たとえ“負け組”になっても、また勝てばいいじゃないか」と思わせるようなマクロな社会政策が必要で、積極的にパブリックなもの(政治や自治)に「勝ち組」にを関与させることが近道だと思う。

狙いを付けるとすれば、「収入を減らしてでも、自由な時間がほしい」という層。勤勉でクソ頑張りしている彼ら彼女らの中には、「本当にこれでいいのかな」という漠然とした疑問を抱いている人たちは、少なくないように思う。新橋あたりの少しくたびれたサラリーマンを見ていると、とくにそう思う。ほんとうは、やりがいのあることをしたいのだけれど、いまの生活レベルを落としたくないという恐怖のため、バカな上司やマヌケな同僚や顔も見たくないお得意様に、どこか強ばった愛想笑いを浮かべているような想像をしてしまう。

彼ら彼女らに転落の「恐怖」を味わわせず、動労時間と収入を70%~50%に削減できる選択肢を与えられれば、「椅子取りゲーム」の椅子の空きが増える。「自由な時間」を得た彼ら彼女らは、老人の介護をしたり、スポーツで健康増進したり、生涯学習で賢くなったり、趣味の世界を充実させたりできる。夫婦や親子の会話の時間が増えるかもしれない。育児問題も多少は改善するかも知れない。やや功利主義的な考えだが、社会の効用が高まることは大いに期待できる。(むろん、空いた時間に高収入のバイトをする人もいるだろうけど)。

もうひとつの狙いは、慈善経済にスポットライトを当てること。マルクス主義でいうところの「労働」とは違って、働きがいのある=つまり「疎外」のない「働き」というものがあることを、だれもが経験上知っている。道ばたの空き缶をゴミ箱に捨てることや、交通安全のため子供たちの通学路に旗をもって立つこと、拍子木を叩いて近所の人たちと「火の用心」の見回りをすること、駅の階段の上り下りが大変な人の手を引いてあげること、募金活動に協力すること……。そうしたことのすべてを「それは行政の仕事だ」とか「企業にやらせればいいんだ」などと勘違いし、じぶんは一切の負担を背負わずに抗議ばかりする態度は、あまり好きな表現ではないが「モンスター市民」といってもいい。

経済活動というのは、市場での取引や税の適正配分だけではなく、身の回りのちょっとした「働き」も、慈善経済としての価値を持つのだということを知るべきではないか。現在の裁判員制度はいろんな問題点が指摘されているが、司法への市民参加という流れはcivic virtueの陶冶を期待できる点で悪いことではないし、NGO/NPOの活動も、広い意味で慈善経済のなかに位置づけることができる。

むろん、ミクロな政策や、弱者による異議申し立ても必要だし、緊急の措置が必要な人も相当数いる。なので、そうした緊急対策的なものを否定するわけではないが、それだけでは足りない分を、だれがどうやって埋め合わせるかといえば、地域社会なんだよね。

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コメント

>彼ら彼女らに転落の「恐怖」を味わわせず、動労時間と収入を70%~50%に
>削減できる選択肢を与えられれば、「椅子取りゲーム」の椅子の空きが増える。

既存の労働基準法を、ちゃんと適用させる、だけで「労働者にとっての時間」はかなり変わる気がしますね。収入を激減させなくても。

40時間労働の遵守。
時間外労働への法定の基準での時間外手当の支給。
有給休暇の完全取得。
などなど。

有給は取らない、安い時間外コストで働いちゃう、から、現実には不足している人員を増やすという必要を経営者は感じない。


投稿: ママサン | 2009年10月16日 (金) 08時29分

>ママサンさん
 コメントの返信が遅れてごめんなさい。
 既存の労働基準法を適用させるための社会的なインセンティブがないのが問題なのではないでしょうか。社会不安のため、必至になって働く。ゆとり教育を実施すると、子供の塾通いが増えるのと似ているような気がします。

投稿: 畑仲哲雄 | 2009年10月19日 (月) 22時58分

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