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2010年1月31日 (日)

「政局」と小説吉田学校

Yoshida_school_bookYoshida_school_movie「政局」という言葉は、政治現象を表現するための、おそらく日本で独自に発達した概念なのだろう。広辞苑では「政治の局面。その時の政界の有様。政界のなりゆき」という字義通りの説明だが、現代用語の基礎知識には「政治の主導権をめぐる争いが表面化した状態を示す言葉」と一歩進んだ解説が記されている。やくざの世界でいえば「出入り」、RPGでいえば「バトルモード」に相当すると思えばよい。そんな「政局」を人間ドラマとして描いたの映画『小説吉田学校』を、森重久弥を懐かしみながら観た。小説は未読だが、第1部の途中までなら読んでもいいかなと思う。

森谷司郎監督『小説吉田学校』(東宝、1983)
戸川猪佐武 『小説吉田学校〈第1部〉保守本流』 (学陽書房、人物文庫、2000)

この映画は、元読売新聞政治部記者で政治評論家の戸川猪佐武氏の実録小説シリーズの第1部「保守本流」を映像化したもの。最初、流動出版というところから出たものが学陽書房でシリーズ化され、角川文庫になったようだが、詳しいことは知らない。わたしが中高生のころのベストセラーで、本屋でよく見かけたものだが、じいさんたちの顔が表紙になった本など、当時のわたしにはまったく興味がなかった。

戸川作品は第2部「党人山脈」、第3部「角福火山」、第4部「金脈政変」、第5部「保守新流、第6部「田中軍団」、第7部「四十日戦争」へと続き、衆参同日選を描いた第8部「保守回生」で打ち止めになっている。「小説」と謳いながらすべて実名で描かれており、どの部分が事実で、どの部分が戸川の想像なのか、よく分からない。しかし、個々の政治家たちのキャラクターが巧妙に描かれていて、妙なリアリティを醸し出している。

戸川の本が売れた背景には、当時の人々が、政治をじぶんたちの暮らしに直結した民主主義内の政策論争として受け止めるよりも、“プロレス”に野次を飛ばす観客であることに慣れてしまったからだと思う。小難しくいえば、C.シュミットのいう「政治的なるもの」を友敵関係としてベタに受け止めるリアリズムがあったといえるかもしれないが、悪くいえば、民主主義の理念をどこかへ忘れてしまった結果だろう。吉田学校の門下生も、国民も、対米講和独立後はデモクラシーを手続き的な制度に矮小化してしまったのかもしれない。

映画「小説吉田学校」は白黒とカラーの2部に分けられる。前半の白黒部分は、日本が戦争に敗れ (GHQ / SCAP) の統治下にあった時代で、吉田茂がサンフランシスコ講和条約(1951)に漕ぎ着け、実質的な独立を勝ち取るまでが描かれる。官僚出身で国際感覚あふれる老練な政治家が日本の復興を願い奮闘する姿が、かなり美化して描かれる。

当時の米国は朝鮮戦争の勃発を受けて日本の再軍備化を要求していたとされる。対する吉田は、米国の圧力をかわしながら、個別の講和条約を結ぶことで実質的な独立をはかり、自治権を取り戻す。高圧的な米国の態度を憎々しく思いながらも(当時は保守/革新が、反米/親米、護憲/改憲という、今日とはほぼ逆の立場だった)、けっして反米を掲げて右傾化することなく、むしろ国際政治のなかで米国の立場を利用しつつ国土と国民を守ろうとする態度が、戦後日本の「保守本流」の起点ではないか、というのが戸川の見立てである。今日の内政・外交を見るうえで一つの座標軸になる。

だが、映画がカラー画面になると、とたんに今日の政局報道をデフォルメしたドロドロとした暗闘が描かれ続ける。片方に、吉田茂(森重久弥)、池田勇人(高橋悦司)、佐藤栄作(竹脇無我)、田中角栄(西郷輝彦)らがいて、もう片方に鳩山一郎(芦田伸介)、三木武吉(若山富三郎)、河野一郎(梅宮辰夫)らがある。かつての全日本プロレスと新日本プロレスの抗争のようで、政治理論や思想的にはなにも語られていない。政治学者ならまだしも、記者出身の評論家にそれを期待するのは無いものねだりなのかもしれない。むしろ、脱イデオロギーの潮流なかで政治報道と政治理論が交差しなくなった現実をリアルに映したものと受け止めるべきかもしれない。

もう一点、この映画を評価するとすれば、森重と若山の演技のすばらしさである。特典映像で、細川隆一郎が駆け出しの政治記者だったころ、大物政治家が国会の廊下を歩いてくると、“風圧”を感じたと話していたが、映画の中で三木が吉田と対決しにいく場面はそれがみごとに表されている。演出はかなり過剰だが、むかしの政治ジャーナリストの目に映った政治家の表象のひとつなのであろう。

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