基地と NIMBY (ニンビー)
いまさらながら沖縄の普天間問題について、じぶんなりの考えを備忘録としてメモしておきたい。結論からいえば、わたしはこの問題を、(1) 日本の防衛問題、(1) 日米安保問題、(2) 米軍再編問題、そして何よりも(4) 沖縄だけが過大な負担を強いられている不平等問題――などと理解していた。だが、この間の世論の動きをみるにつけ、もっとも深刻なのは ニンビー問題ではないかと考えるようになった。
ニンビーとは Not In My Back Yard の略。必要なものかもしれないが、わたしが住んでいるところから遠ざけてほしいという態度を意味する。ニンビー問題は、廃棄物処理場や焼却炉、発電所、刑務所などのような、周辺住民の健康や安全に影響を及ぼす可能性のある施設等の建設や設置の際に浮上する。このため、その施設を作ることもたらされる効用benefitと負担costの双方を、一度は功利主義的utilitalianismに議論の俎上に上げた後、そこからこぼれ落ちてしまう正義justiceや公正fairnessの観点から再検討するという、合意に向けた民主的なプロセスが求められる。
米軍普天間飛行場をめぐるこの間の議論では、上記の(1) 日本の防衛問題、(1) 日米安保問題、(2) 米軍再編問題が俎上にのぼることはなく、nimby現象に右往左往しているように映る。現政権が前政権とのあいだで、防衛・安保問題に関してさほどの差がみられず、「移設」だけが唯一の政治的課題となってしまったことにも原因の一つである。前政権の安保問題に異論をとなえてきた社民勢力が現政権に参加しているが、発言の機会は与えられていない。
政治における最大の関心事は、「5月末」という「期限」内に「移設先」が決まらず、鳩山首相が失脚するかどうかに絞られてしまった。そこにはbenefit / cost analysis もなければ、justices や fairness からの議論もない。わたしには、かかるnimby的な態度が、沖縄を除くすべての地域に(マスメディアの論説にも!)蔓延していることが、もっとも深刻な日本の政治問題であるように思える。
基地問題で犠牲を払っているのは、米軍施設周辺住民をはじめとする沖縄県民である。この犠牲から「利得」を得ているのは多数者たる大多数の本土住民であり、多数者がnimbyimsに染められるという隘路aporiaに陥ってしまった。むろん、nimbiesも、いまの状態が続くことがよいとは思っていない。nimbiesは、nimbyimsゆえに、沖縄の人たちのような犠牲を払わされる恐怖を抱きつつ、nimbyims ゆえに罪の意識を感じている。ただし、nimbiesは、「おまえらニンビーだよ」と指弾されることを避ける傾向にあるのえ、ひとたび多数者がnimbiesになってしまうと、nimby問題は語られなくなる。
nimbiesがハトを生け贄にしても基地問題は解決しないし、沖縄に対する罪悪感も相殺されない。問題解決には、Nibmy的な問題設定を排し、Niaby ( Not In Anyone’s Back Yard ) も視野に立ち返ってはどうかと思う。たとえ日米間の対立と混乱を招いたとしても、沖縄を含む国内の利益を守る、命を守るという理念は、政権公約であったはずだ。それが不可能ならば、「移転先」を東京にしてもらいたい。多数の受益者がより多く負担するほうが、現在のinjusticeでunfairな状況よりも、ましだと思うからだ。
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コメント
>それが不可能ならば、「移転先」を東京にしてもらいたい。
諾。
近日、前々々首相(確か・・・麻生の前で、福田の前で)がかくのごとくおっしゃったそうです。
「アメリカの青年が日本を守ってくれるのは、日米同盟で義務づけられているから。家族があり、恋人がいる若者が、命を賭して日本を守ってくれている。日本には、アメリカに基地の土地を貸す義務がある。責任逃れは許されない。中国の脅威から日本は守ってもらっている」と安保のありがたさを語る。
だから、「義務を負う」責任ある政治家として自分の選挙区に米軍基地を受け入れる、とは絶対に言わない。
沖縄に押し付けておけばいいであり、岩国に押し付けておけばいいであり、厚木に押し付けておけばいい、でしかない。
>nimbiesは、nimbyimsゆえに、沖縄の人たちのような犠牲を払わされる
>恐怖を抱きつつ、nimbyims ゆえに罪の意識を感じている。
沖縄の人に犠牲に思いをはせ、恐怖を感じ、罪の意識を感じている「それ以外の地域の日本人」ってどれくらいいるのでしょう。
あるいは、メディア人でもいいけれど。
問題を内在化するから、様々な感情が生まれるのでしょうが、内在化していなければ、何の感情も生まれないわけで。
non-politic のではなく a-poritic という今の全般的な意味での国民意識と同根ということだと思えてしまいます。
投稿: ママサン | 2010年4月28日 (水) 19時34分
>ママサン
福田さんの前といえば、たしか、「美しい国」が好きな安倍さんですよね。なんだか妙に納得します(笑)
「内在化していなければ、何の感情も生まれない」というのは、たしかにそのとおりです。メディア関係者も同じで、移設先を得意気に予測して、「オレ様ってすごいでしょ」を誇示する人もいますね。
ところで、橋下知事が「大阪で引き受ける」旨の発言で物議をかもしたことがありましたが、そのときの大阪府民の多くは、一瞬かもしれませんが、ギョっとしたと思います。その恐怖が、沖縄の「日常」なのだということに思い至った人もいたはず。橋下さんは好きになれませんが、あの発言はすこし評価しています。
石原さんが「羽田沖に米軍基地を一極集中させ、ついでにカジノもつくって、お金も稼ごう」というようなこをを言ってくれれば、彼を評価します。
投稿: 畑仲哲雄 | 2010年4月29日 (木) 00時18分
>現政権が前政権とのあいだで、防衛・安保問題に関してさほどの差がみられず
在日米軍の縮小に繋がれば,防衛費拡大の問題は避けられなくなると思います
>問題解決には、Nibmy的な問題設定を排し、Niaby ( Not In Anyone’s Back Yard ) も
>視野に立ち返ってはどうかと思う
日本国内という事ですか?
それとも,世界的な話ですか.
日本国内でのNiaby ( Not In Anyone’s Back Yard )は,海外からみればNIMBYになると思います
日本人の視点から物事を見れば,国外移転は問題解決になると思います.
しかし,世界的な視点から見れば,国外移転も「NIMBY」ですよね.
迷惑施設である米軍基地負担を,沖縄から,グァム,テニアンに押しつけるだけの話だと思います.
投稿: しま | 2010年4月29日 (木) 08時19分
>しまさん
NIMBYの枠組だけでは議論が前に進みませんね。その種の議論しかしない人が増加している現状を危惧しているのです。
投稿: 畑仲哲雄 | 2010年4月29日 (木) 20時10分