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2010年5月21日 (金)

官房機密費:魔女狩りと沈黙

野中広務元官房長官による官房機密費発言の波紋は広がり続けている。この発言で“無罪”を言い渡された田原総一朗氏以外は、みな「灰色」となり、 一種の“魔女狩り”が始まりかねない情勢である。いったい誰が吊されるのか--そんなことばかりに話題が集中し、官房機密費のあり方に関する議論が矮小化されかねないことが心配だ。上杉隆さんは大手マスメディアが沈黙を決め込んでいると批判するが、魔女狩り的な“犯人”捜しよりも、むしろ機密費の使途についての公開ルール策定を急ぐべきではないか。わたし自身、当初は政治評論家に金が配られていたことに目を奪われていたが、マス・ヒステリーは恐ろしいと思うので、このへんで軌道修正しておく。

問題点を整理しておきたい。官房機密費(報償費)と呼ばれる不透明な予算が、内閣官房の裁量で執行されていることは広く知られている。問題は、その使途が納税者にまったく明らかにされる気配がないことだ。最初に着手されるべきは、支出に関する公開ルールづくりだろう。使途が明らかになれば、支出の正当性の検証が可能になる。すべてはここから始まるといってよい。最悪なのは、こうしたルール作りをそっちのけにして、「もらったヤツは誰だ」というサンクションが先行することだ。

「機密費を受け取ったヤツは誰だ」という問題についても、一定の整理が必要だろう。国対政治のなかで政治家にばらまかれたり、旅行の餞別に支出されてきたという野中さんの指摘自体、とても由々しきことだが、「それはさておき、民間人の政治評論家に流れていたのか!」という声が多いのはどうしたことだろう。

たしかに、統治権力を主な取材対象にしている言論人が、統治権力から付け届けを受け取っていたとすれば倫理上の問題がある。何よりも受け取った金銭は過去に遡って全額返却するべきだろう。ただし、現金の出元が「官房機密費」であることを知らされていなかった場合はその限りではない。

たとえば、懇意にしている政治家個人から贈られたものだと勘違いしていた場合や、講演や原稿執筆を頼まれたりした際の謝礼が機密費から支払われていた場合などだ。受け取る側に、どの金庫から出てきたカネであるのかを調べる方法はない。労働の対価ともいえる金銭について目くじらを立てるのは大人げない。(市民社会に仕える言論人は国家を相手にセコイ小遣い稼ぎをするはずがないので、言論人を見極める材料として機密費の使途公開jは役に立つ)

ジャーナリズム倫理上もっともよい解決方法はなにか。それは機密費を受け取った人が沈黙し、逃げ回り、司法の場に引きずり出され、最後に土下座することではなく、むしろ早い段階で野中発言と言論で闘うことだ。機密費を受け取った人の告白は、配った野中氏と同じく説得力がある。それを逆手に取り、機密費の問題点を明らかにすることができるのではないか。ビクビクしながら嵐がすぎるのを待つよりも、はるかによい。それは、後輩たちに貴重な教訓を残すことでもあり、民主主義に貢献することであり、名誉を守ることでもあるはずだ。

そもそも、わたしがこの問題をいぶかしく思っているのは、なぜこの時期に野中さんが官房機密費を政治評論家に配ったことを中途半端にチラつかせたかだ。そうした背景も含めて事実関係が明らかになればよいのだけど、「誰がもらっていたか」だけに話題が集中すれば、それこそ野中さん?の思うツボである。野中発言に乗せられ、魔女狩りをして、それでスッキリして機密費問題をスルーしてはならないと思う。ここはクリンゴンの情熱よりも、バルカンのクールさが必要だ。

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コメント

今朝の毎日新聞にも小さな記事で出ていましたが
既報の内容以上のものはありませんでした。
大手メディアがだんまりなのは、やっぱり後ろめたいから?
田原さんが返した、ということはもらった人はオカネの
出所については、何かしら知っていたんだろうとは思います。

>支出に関する公開ルールづくりだろう。

賛成です。
ついでに検察審査会の議論も公開してほしいです。

投稿: pinoko | 2010年5月21日 (金) 06時18分

>pinokoさん

>大手メディアがだんまりなのは、やっぱり後ろめたいから?

「やっぱり」というのは、pinokoさんの主観でしょうか。
じつは当初、各社それなりに大きく報道していましたような印象を受けました。
47newsでは「主要」ジャンルで、トップニュース扱いでしたし、
http://www.47news.jp/CN/201004/CN2010043001001111.html
朝日新聞社もウェブでもトップ、新聞記事も1面だったはず。
いっさい報道していないなんてことはないのですが、、、、

投稿: 畑仲哲雄 | 2010年5月21日 (金) 20時11分

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