祝!『NPO PRESS』500号
新潟県・上越地域で発行されている地域紙『上越タイムス』の月曜版に地元NPO中間支援組織が編集する特別な紙面がある。紙面は『NPO PRESS』と題され、「くびき野NPOサポートセンター」(秋山三枝子理事長)が作っている。ちょっとわかりにくいかもしれないが、日刊の『上越タイムス』(20頁)に、毎週月曜刊の『NPO PRESS』(4頁)が埋め込まれるという変則的な形態を採っている。そんな『NPO PRESS』が2010年11月1日に500号を迎えた。心からの「おめでとう」を伝えたい。
上越タイムス http://www.j-times.jp/
くびき野NPOサポートセンター http://www.kubikino-npo.jp/
公開講座「新聞社×NPO~『協働』の可能性」(メディア研究のつどい+電通コミュニケーション・ダイナミクス寄附講座)
公開講座「新聞社×NPO~『協働』の可能性」 (10/7 Wed.)
わたしたちは昨年、NPO理事長の秋山三枝子さんと、秋山さんの良き理解者である上越タイムス社前編集局長の山田護さんを東京大学に招き、情報学環の研究グループ「メディア研究のつどい」で講演をしてもらった。講演の内容はとても刺激的で、それまでに何度も上越に足を運び、関係者をインタビューしてきたわたしにも驚きがあった。林香里ゼミを代表して、あらためて感謝の気持ちを伝えたい。
『上越タイムス』と『NPO PRESS』の協働(Co-producing)は、従来の古典的なジャーナリズム理論ではうまく説明ができない。「編集権」を外部に委譲した時点で「逸脱」と判断され、調査研究の対象になりにくいのである。他方、市民メディア実践者のなかにはマスメディアを敵視する人も一部にいて、この実践は「マスコミ」へのおもねりに映るらしい。協働紙面の実践は11年の長きにわたるが、これまで大きな注目を集めてこなかった理由は、ジャーナリストや研究者が東京のメディアや西欧の巨大メディアばかりに目を向けてきたためではないか。
たしかに、『上越タイムス』と『NPO PRESS』の協働実践は、新潟のなかでも富山県寄りの過疎地域で行われてきたし、発行部数も(失礼ながら)読売、朝日、日経に比べれば誤差の範囲内となろう。しかし、この地が抱えている課題は、どれも普遍的なテーマに見える。つまり、上越の人たちが直面する政治、経済、文化、コミュニティをめぐる難問の数々は、日本じゅうどこにでも存在する。昨夜たまたま、奄美大島出身の若手研究者と晩メシを食べながら議論したときも、奄美と上越との共通点はいくつも見つかった。周縁の地、周縁のメディアをきちんと対象化すれば、いままで見えていなかったデモクラシーをめぐる最先端のテーマが立ち現れ、そこに向かって地域とメディアの未来の姿を模索していけそうな気がする。遅ればせながら、ではあるが。。。
理解者のひとりである東京新聞記者の土田修さんは、上越のメディア実践を「日本メディア史の金字塔」と表現していたが、そんなふうに言われる時代が来れば、そのときのメディア環境はおそらくずいぶん良くなっているだろう。水越先生が『メディア・ビオトープ』で書かれていた生態系のメタファーでいえば、下草や灌木がしっかり生い茂る豊かで多様なメディア世界。将来「金字塔」になるであろうメディア実践を探し、記録し、議論し、理論化することは、東京や西欧で根腐れはじめた巨木メディアの崩壊を案じるよりも、はるかに大切なことだと思う。
[PR] 近々、「NPO PRESS」に関するわたしの査読論文が公開されます。読んでくださいね。
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コメント
こんな新聞が、あるんですね。
ある意味、CATVの中に(ま、あれはキャリアでしかないのだけれど)市民のための枠を設けている三鷹ケーブルあたりの実践も、少しはそこに通じるのかもしれないと思いました。
投稿: ママサン | 2010年11月 4日 (木) 10時20分
ママサン様
ご指摘のとおり、CATVによるパブリック・アクセス・チャンネルとの共通点が多いです。さすが!
投稿: 畑仲哲雄 | 2010年11月 6日 (土) 00時03分