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2011年2月27日 (日)

「善」のジャーナリズム:秋田の例(備忘録)

TBSのニュース探求ラジオ「DIG」に清水康之さんが出演して、自殺対策について語っているのをPodcastで聴いた。年間3万人を超える自殺者を出す現在の日本は、かなり異常な状態であるはず。3月が最も自殺の多い月だということから、パーソナリティの荻上チキさんが招いたようだ。議論の全容は実際にPodcastを聴いてもらうしかないが、一点だけ、地方紙の精力的な自殺対策報道が言及されていたのでメモしておきたい。

「自殺の現状と対策はどうなっているのか?」Dig | TBS RADIO 954kHz 2011年2月24日
自殺対策支援センターライフリンク
佐藤久男「ワーストが消える日(対話/会話)」秋田魁新報2011年2月8日

NPO法人自殺対策支援センター「ライフリンク」代表の清水さんが、自殺対策によって秋田県内の自殺が減ってきたという事例について紹介した。秋田での対策は「啓発」と「相談の強化(実務)」の2つの柱があり、前者の「啓発」に地方紙『秋田魁新報』が大きく寄与しており、後者は民間団体が1年で50日以上相談会を実施しているという。

相談会は、5日間1セットで、県内を巡回しながら10セット行う。秋田魁新報は、この相談会を事前に告知し、ストレートニュースとして報道し、さらに検証報道も行うという、キャンペーン的な取り組みを行っているのだという。


清水康之 民間団体が中心になってやっていて、行政も巻き込んでやっていて、そうした取り組みを、秋田のローカル新聞である「秋田魁新報」が、もう連日のように報道するわけですね。私も一度調べたことがあるんですけども、多い年は1年間に300くらいの記事を書いてるんですね、自殺対策の。
荻上チキ ほぼ毎日ですね。
外山惠理 へぇー。
清水 民間団体の人を紹介したり、相談会の事前の告知を出したり、相談会の結果を報道したり、あるいは識者・研究者のインタビューを特集したり。多いときは300、いまでも200記事くらいは1年間で。そうすると自殺対策は生きる支援なんだということが、あたりまえのように県民の間に浸透していく。まさに県民運動として自殺対策を生きる支援として展開していく。そうした土壌ができているので、命の総合相談会のようなものをやっても効果が出ていく。耕された土壌に種をまくような形で、芽が出て育っていくわけです。これが啓発だけだと、土壌が耕されるだけだけど一向に芽が出ない。あるいは、地域の理解がないところでいくら実務的な取り組みを進めようと思っても、枯れた土壌に種をまいても根が張らないように、なかなか育たない。啓発と事務津を両輪でやって、秋田ではいい方向で進んでいっている。
外山 そんなに減ったんですか?
清水 減ってますね。なだらかに傾向が見られる。秋田の場合は年々確実に減っていっている。

秋田魁新報といえば、秋田県で圧倒的なシェアを誇る「県紙」だが、2008年に夕刊を廃止したことに伴い、紙面に掲載できる総記事数も減ったはず。だが清水さんのような人からこういう評価を受けるというのは、とても誇れることだと思う。社内でどういう議論があったのか、知りたいところだ。この問題に熱心な記者がいるとか、いろんな事情があったのだと思う。

これはわたしの推察にすぎないが、清水さんが言及した秋田魁のニュース記事は、記者の主観を排した「客観報道」のスタイルで書かれてきたはずだ。そのスタイルは、近代自由主義の思想によって彫琢されてきたもので、報道者が特定の政治思想や主義・主張に偏っていないことを示す「原則」である。ただ、清水さんがいうように秋田魁が「自殺対策」にまつわる事象に記者を派遣し、多数の記事を掲載するという営みのなかに、地方紙による「善」の構想が埋め込まれているといえるのではないか。

この「善」なるものをローカルなジャーナリズムのなかでどう位置づけるか。課題だ。

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