目的としてのメディア/手段としてのメディア(備忘録)
早稲田大学メディアシティズンシップ研究所で12月13日に開催されたワークショップ「東日本大震災におけるラジオ局の役割」に参加した。司会は伊藤守先生で、この日の報告者は「FMわぃわぃ」代表者の日比野純一さん。3.11以降いくども被災地を訪れ、災害FM局の立ち上げや多言語放送の支援にかかわっているという。自身の神戸1.17体験も含め、ラジオの可能性と課題について貴重な話をしていただいた。遅くなったが、記憶が薄れないうちにメモしておく。
コミュニティ・エフエム(cFM)は、もともと半径数百m~数km程度の範囲を対象とする地域限定の小電力のミニFM局(76.0~90.0MHz)である。1992年に放送法改正を受け、北海道函館市に「FMいるか」が誕生したのを皮切りに、現在まで約250局が開局した。運営母体はさまざまで、役所と地元企業による3セク形式のものが多いようだが、地元の既存メディア、地元大学、NPOが発信するものもある。大災害が発生した際、こうした市町村レベルのFM放送が、臨時災害放送局申請し、住民への情報提供に役立った例は少なくない。
ちなみに、日々野さんらの「FMわぃわぃ」は、阪神大震災後、マイノリティである在日外国人向け放送をスタートしたNPO型放送局である。当初は違法局(海賊放送)としてスタートしたが、政府にも市場にも十分なケアができていなかった困窮者支援で成果をあげていたという事実性が、その活動に正統性を付与した――合法化させた――珍しい例といえる。
日比野さんは3.11以後、東北各地の臨時災害放送局の設立支援を行った。講演では、その後の各地の放送局の実情や、自らのFMわぃわぃの体験を踏まえ、復興期にはいってもなお存続可能なコミュニティFMのいくつか条件を挙げた。ひとつは、既存のマスメディアを真似ないこと。もうひとつは、お役所主導にならないこと。そのほか、リスナー=住民参加が確保されていること。大きくまとめてしまえば、なんのために地域メディアが必要なのかという原点に立ち戻りながら放送をしていくということにつきる。
たしかに、事業を持続可能なものとするための仕掛けは(ビジネスモデル)は必要である。ただし、電波に乗せて発信した情報に広告をつけて対価を得るという「送り手」中心の発想は、小さなコミュニティのメディアには向かない。「送り手」自身がコミュニティに働きかけてコミュニティから利益を得ることを主目的とするのではなく、コミュニティの利益(共通善)のためにメディアを手段化するという発想の転換が必要となる。
むろん「言うは易し行うは難し」である。日々野さんたちのFMわぃわぃも、一時期は、娯楽志向に傾斜した時期もあったという。それでも、迷いが生じるたびに立ち返るべき座標軸をもつことが重要であるという日比野さんの話には、とても説得力を感じた。ジャーナリズムにとっての第一原理を「権力監視」とする研究者もいるが、日比野さんたちの思想と行動は、「第一原理としての共通善」を提唱するC.クリスチャンズの議論によって説明できると思う。(どなたか邦訳してくれぬか)
>早稲田大学 メディア・シティズンシップ研究所の伊藤守先生は、新潟県の巻原発をめぐる住民投票を調査した『デモクラシー・リフレクション―巻町住民投票の社会学』の著者であり、この本はいまも教えられることが多い良書だと思う。
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コメント
これまで二度お訪ねした奄美FMのあり方は、コミュニティーを再生させてゆく道具としてのメディアとして構想されているんじゃないかなぁと思ったりします。手段としてのメディアですね。
それが「共通善」という言葉でくくられるところなのかどうかは別にして。
投稿: ママサン | 2011年12月27日 (火) 13時14分
>ママサンさん、
こんにちは。
「コミュニティーを再生させてゆく道具」というのは、まさに同感です。
わたしが訪れた東北の災害FM局も、津波の被害で町内会が機能しなくなってしまい、自助共助のための情報共有のため臨時災害FMが運営されていました。
投稿: 畑仲哲雄 | 2011年12月27日 (火) 14時07分