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2013年1月30日 (水)

最近みた女たちの映画

博論も終わったので、好きな音楽を聴き、観たかった映画をなるべく観るようにしている。だが、ひとりで観賞しているため、なんども張り合いがない。話し相手もいない。だがせっかくなので、最近みた女たちの闘いを描いた4作品に共通していることを、ネタバレにならない範囲でつらつら書き残しておきたい。

ジョシュア・マーストン監督『そして、ひと粒のひかり』(原題:Maria Full of Grace、公開年2004)
コートニー・ハント監督『フローズン・リバー』(原題:Frozen River、公開年2008)
デブラ・グラニク監督『ウィンターズ・ボーン』(原題:Winter's Bone、公開年2010)
テイト・テイラー監督『ヘルプ――心がつなぐストーリー』(原題:The Help、公開年2011)

『そして、ひと粒のひかり』の主人公マリアは、コロンビアはボゴタ郊外の小さな町に暮らす17歳の少女。マリアの家には、幼児を連れて実家に戻ってきた姉と初老の母がいて、2人はマリアの工場労働での収入をあてにしている。マリアはある日、妊娠したことに気付く。ボーイフレンドに会うが口論になり、衝動的に工場も辞めてしまう。無収入となったことを姉と母からきつく責められ、マリアは麻薬の運び屋になる。

『フローズン・リバー』の主人公レイは、カナダ故郷に近い寒村で暮らす中年の主婦。育ち盛りの息子と娘がいて、トレーラーハウス暮らしから抜け出したいと願っていた。そんなある日、新居購入資金をギャンブル漬けの夫が持ち逃げした。レイは夫の車を取り戻そうとする過程で、密入国ビジネスに手を染めていた先住民モホーク族の女ライラと出会い、ライラとともに不法移民を運ぶ闇仕事に荷担する。

『ウィンターズ・ボーン』の主人公リーは、ミズーリ州南部オザーク山脈の貧しい寒村に暮らす17歳の少女。リーは、精神障害になった母に代わって弟と妹の面倒をみている。リーの父親は、家と土地を保釈金の担保にして出所したまま失踪していた。父親を見つけなければ家と土地を没収され、貧困から抜け出す手段としての軍への入隊も不可能になる。リーは、父を殺害したと思われる村内の犯罪集団と交渉する。

『ヘルプ』の主人公スキータは、大都会での大学生活を終え、ミシシッピ州ジャクソンの田園地帯に戻ってきた23歳の女性。幼なじみの女友たちはみな専業主婦となり、スキータの目には、黒人を搾取する差別者に映った。スキータはじぶんの母も黒人を人間扱いしていなかったことに衝撃を受ける。1960年代のジャクソンで黒人女性にとって唯一の仕事は家政婦(ヘルプ)であった。スキータはそんなヘルプたちの目からみた故郷の現実を本にするためヘルプたちと交渉する。

いずれの映画もたいへんな良作だと思う。これらに共通しているのは、絶望的な状況におかれた弱者の側から、社会の矛盾を告発していることのように思えた。身近な人間的興味関心から、公共的な問題を摘出する。それは、ルポルタージュの方法と重なりあう。観る者に主人公たちの痛みを疑似体験させながら、『そして、ひと粒のひかり』は薬物問題を、『フローズン・リバー』は不法移民問題を、『ウィンターズ・ボーン』は貧困問題を、『ヘルプ』は黒人差別を考えさせるきっかけを与えてくれる。

いずれの作品でも痛感したのは、世界が持てる者の側と持たざる者の側に分かれており、どちらに生まれ落ちるかは選択できないし、ふたつの世界を行き来することは容易ではないということ。そして、地縁・血族のつながりの濃さである。『そして、ひと粒のひかり』でマリアがニューヨークで出合うコロンビア出身の中年女性が語った言葉が印象的だった。一言一句は覚えていないが、故郷を遠く離れて苦労して貯めたお金を、故郷の家族に送ったときのあの気持ちがいまも忘れられない、と若い日を回想する場面は、とてもせつない。持たざる側の家族にせびり取られたという憤りではなく、持てる側に逃げたという自覚をもつ者にある贖罪意識のようなものが描かれていたように思えた。(制作者がどのような意図を込めていたかはわからないが・・・)

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コメント

 全部、映画館で見たんですか?時間があるといっても気忙しいでしょう。そんな中で、よく頑張ってますね。こちらは最近、全く駄目です。(最近、ほとんど自営業者的に映画の電子書籍をつくりました。弊社初、一気に二冊!「映画祭 カンヌ、ベネチアの10年 齋藤敦子の海外報告」といいます。iPad、iPad mini専用です。お知り合いの方がいましたらおすすめください。)

投稿: schmidt | 2013年1月30日 (水) 11時43分

>schmidtさん
残念ながら、ぜんぶDVDを借りて観ました。やっぱり映画は映画館で観たいですね。
電子書籍『映画祭 カンヌ、ベネチアの10年 齋藤敦子の海外報告』は存じていますよ。iPadでじっくり読ませていただきます!

リンク
電子書籍「映画祭 カンヌ、ベネチアの10年」 blog.kahoku.co.jp/movie/ ---- 河北新報社サイト

映画祭 カンヌ、ベネチアの10年」齋藤敦子の海外報告 カンヌ編 --- iTunes Store のページ
映画祭 カンヌ、ベネチアの10年」齋藤敦子の海外報告 ベネチア編 --- iTunes Store のページ

投稿: 畑仲哲雄 | 2013年1月30日 (水) 11時55分

ありがとうございます。電子書籍の世界は、驚かされることばかりです。ごく一部のスーパーコンテンツは別ですが、弊社のような地味系真面目出版は、大量のアプリ(アップルの場合)の中からどうやって発見してもらうかという、手立てが皆無に等しいんですよ。「ロングテールプロモーション」について実践的にあれこれ、やってます。PR用の名刺を作って生涯一商品一営業担当者になるしかないかもしれません。

投稿: schmidt | 2013年1月30日 (水) 12時11分

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