今さらながら『シューカツ!』
東京の民放キー局やNHK、大手出版社、新聞社は「難関」といわれている。理由の一つは、新卒採用枠のわりに応募者が多いことである。十数人から数十人の募集に何百~何千の学生が押し寄せる。結果的に何百倍という倍率になる。背景に、圧倒的な知名度がある。だれもが企業名を知っている。華やかな世界というイメージも手伝って、記念受験をする学生も少なくない。
数ヶ月前、朝井リョウ『何者』(2012, 新潮社)を読んだ勢いで、石田の『シューカツ!』も読んでみたのだが、両者の差異に愕然とする。学生が自主ゼミのようなグループを就職戦線に立ち向かう設定は共通している。大学の就職課や教員は一切登場しない。仕切り屋で切れ者っぽい男子学生や「美人」の女子学生が恋人同士であることや、どこかノンキで鈍感な三枚目役の男子学生がいることも似ているし、どちらの作品にも真面目でいじらしい女子学生は登場する。しかし両作はまったく異なる視点で書かれ、人物も正反対である。
『何者』を書くにあたり朝井は、石田の『シューカツ!』を意識せざるを得なかったと思われる。石田作品の登場人物はみな優秀で善人ばかりである。半数以上が作戦と勉強と助け合いによって大手メディアから内定をもらう。テーマを挙げるとすれば、「成長」の語がしっくりくる。だからこそ、石田作品は現実味に乏しい。作品のなかで文藝春秋社とおぼしき出版社がよく描かれている点も含めて、マスメディアを目指す学生には疑問や苛立ちが残るだろう。朝井の作品にはこうした甘さがない。
むろん、石田の『シューカツ!』にも学ぶべき点はある。登場人物たちがES(エントリーシート)のための合宿をする場面は、今日の学生にも参考になるだろう。いわゆる「面接テクニック」や「内定マニュアル」などの参考書や、「就活塾」のようなセミナーが役立たないと警鐘を鳴らしている点も同意できる。わたしも書店にならぶ就職関連図書コーナーを見るたびに、(株や金融コーナーと同じく)怒りを覚える。就活は(金儲けも)マニュアル本で乗り切れるほど甘いものとは思えないからだ。
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