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2013年8月12日 (月)

そんな会社いずれ潰れる

と言われたことがある企業は枚挙にいとまがないだろう。人にそんな気持ちを抱かせるのは不祥事を起こしたり公害をばらまいたりした企業だけではない。就職試験の面接で学生に悪印象を与えた企業も含まれる。三浦しをんはデビュー作『格闘する者に○』で、自身が講談社に応募した際のやりとりらしき場面を記している。

三浦しをん『格闘する者に○』(新潮文庫2005年、草思社2000年)

主人公は、K談社の筆記試験を通過して面接に臨み、面接官の失礼な対応に衝撃を受け落胆する。選別する側/選別される側という非対称な関係になるのは、ある程度避けられない。だが、不誠実かつ非礼な問いをする側/誠実かつ礼儀正しく答える側という、状況に置かれた有名私大の女子大学生は生涯忘れることができない経験をする。

ある面接官は主人公に対し「女の子にうかつなことを言うと、いまはセクハラだなんだとうるさいから、やりにくいねえ」といい薄笑いを浮かべる。むろん、それ自体がすでにハラスメントである。

気になる作家を挙げてごらんといわれ、気を取り直した主人公は、ある作家の名前を挙げる。それを聞いた途端、面接官は「売れないなあ」/「すぐ絶版だろ。読んだことないいけど」とふざけた言葉を発する。

面接が終わり、はやく会場を抜け出したいと思う主人公に対し、会場整理をしていた「人事のおじさん」から思わぬ声を掛けてもらう。

「どうでしたか。うまくいきましたか」 (中略) 「いいえ。もう二度とここには来られないと思いますし、来ないと思います」

作家本人も二度と講談社には足を踏み入れないかもしれない。売れっ子作家になった三浦は、新潮社や文藝春秋をはじめ、集英社、幻冬舎、ポプラ社、徳間書店、双葉社、大和書房、太田出版、光文社、角川書店など多数の会社から作品を出しているが、講談社からは1冊も出していない。

だが、講談社は三浦が何を書こうと業界最大手であり続けているし、良書も生み出している。三浦のように「売れる」作家になれば、意趣返しができるかもしれない。しかし彼女と同じようなハラスメントを受けた元受験生たちは「そんな会社いずれ潰れる」という一種の怨み節がじぶんの記憶から薄らいでいくのを待つしかない。

どんなに立派な会社にも、クズ社員が一定数混じってしまうのは避けられない。1人や2人のクズがいるからといって、会社全体を呪い続けるのは、あまり生産的ではない。だれもが三浦のようにはなれないのだから。(わたしも面接やら売り込みやら、新人教育やらで、失礼な言動・行動をしてくれたクズたちのことは許していないけど、組織全体を憎んだりしてないからね)

ちなみに、この作品のタイトルは、K談社の社員が「該当する者にマルをしてください」と言うところを、「カクトウするものにマルを」と言っていたことから採られている。将来出版社で編集者になりたい考えている学生、とくに女子は一読しておいて損はないとだろうと同居人話していた。男子こそ読んでおくべきだとわたしは思うのだが。

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