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2015年5月23日 (土)

3・21シンポでの講演メモ(掲載遅すぎ)

2015年3月21日に、キャンパスプラザ京都で開催されたシンポジウム「コミュニティメディア-その公共性とジャーナリズムを考える」龍谷大学政策学部・松浦さと子研究室主宰)で登壇した際の講演メモを掲載するのを長らく忘れていました。遅きに失しましたが、わたしと同じ問題意識をもつ学生や研究者が、きっとたくさんいるはずだ信じて、公開することにしました。とくに、地域ジャーナリムの定義については、本で書いた内容よりコンパクトにまとまっていると思います。できれば本を読んでほしいのですが。。。

畑仲哲雄(2014)『地域ジャーナリズム:コミュニティとメディアを結びなおす』勁草書房.

【研究の発端】
 NPOに紙面を提供して経営改善に成功した新聞社が新潟にあるという噂を耳にした。2つの点で奇妙に思えた。ひとつは斜陽化が進む新聞界で部数を伸ばすことはあり得ないということ。もうひとつは、紙面編集の権限を外の組織に委ねることはジャーナリズムの規範から逸脱するということ。

【事例の概略】
 新潟県上越市の上越タイムス社が1999年から地元NPOに紙面の一部を提供しはじめた。提供紙面は月曜の第4~7面。日刊の新聞紙面に週刊のNPO新聞が埋め込まれる変則的な形態。
 NPOは上越地域をカバーする中間支援組織くびき野NPOサポートセンター。取材から組版まで独力でおこなっており、新聞社側は内容をチェックしていない。
 新聞社とNPOはこのプロジェクトを「協働」と呼び、両者間に金銭的やりとりはない。協働開始後、新聞の発行部数は3倍以上になり、単位人口あたりNPO数は県内で群を抜いて高くなった。

【問題意識】
 新聞社がNPOに紙面の一部を開放する「協働」は前例がなく、市民メディア研究者は「パブリックアクセスの新聞版」と評した。だがジャーナリズム関係者からは無視されてきた。
 地域(市民)メディア研究とジャーナリズム研究は背中合わせ。地域メディア研究はマスメディアの産業化・商業科を警戒し、イデオロギーとしてのジャーナリズムを扱いかねてきた。一方、ジャーナリズム研究は大手メディアと国家権力との関係に力点を置きがちで、小規模メディアに関心を払ってこなかった。
 NPO論や地域社会学などを援用して「地域」と「ジャーナリズム」を架橋する必要がある。

【ひとまずの結論】
 先行研究では、協働成立の背景として以下の分析がなされていた。
①新聞社が経営危機に陥り、経営改善策を模索していた
②NPOが設立間もなくコミュニケーション手段を欲していた
③新聞経営者と NPO理事長が同一人物だったため両組織を上手に橋渡しできた

 これに対し、私なりの分析から協働成立の要因として以下の結論を導出した。

①新聞社が地域での役割を自覚し、経営改善に取り組んだ
②NPOがメディアの理解を深め、リテラシーを向上させた
③新聞経営者がNPO理事長を兼ねていたことは、むしろ阻害要因になり得た

 さらに、協働継続の背景として以下の考察もおこなった。

①「新聞の素人」だった経営者が編集局から「編集権」を奪い一部をNPOに委譲した(「編集権」は戦後GHQ統治下で捏造されたものであり、形骸化し、異なった文脈で用いられている)
②NPOは新聞社の干渉を排除して編集の独立を保持した
③ジャーナリズムの規範論は自由主義が根強いが、コミュニタリアニズムの考え方も重要
④分権社会のメディアの役割は、権力に対する「番犬」だけでは足りず、自治のための「善き隣人」としての使命が求められるのではないか
⑤紙面をNPOに提供し続ける営為も、自治のためのアドボカシー・ジャーナリズムである
⑥客観報道に固執する限り、問題解決を指向するアドボカシーは不可能

【地域ジャーナリズムの仮定義】
 ナショナルな規模の「主流」メディアが掲げる自由主義的なジャーナリズムの「地方版」「ミニチュア版」ではなく、中央と地方の固定的な関係を止揚するジャーナリズムである
 分権的で小規模な社会においてより強く要請され、市民社会に開かれたコミュニケーションを志向する
 実践者は、専門職としてのジャーナリストだけにとどまらず、インフォーマルなセクターの参加を前提とする。
 地域の問題解決のため議論を促進し、必要に応じて「正義」や「善」、「郷土のアイデンティティ」などの価値にコミットする。

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